Vol.1 ライディングの進化に対応する開発
by RIDERSCLUB

  1. 日本のものづくり

たゆまぬ進化 × 変わらぬ伝統

クシタニの技術と伝統の原点は、レザーのレーシングスーツにある。

日本に存在しなかった“革ツナギ”を手掛けて60年余りバイクとレースとライダーの進化に寄り添い、安全性と機能性を磨き続ける。

チームとの折衝からライダーの採寸、サーキットでの補修などレーシングサービスまで担当するベテランスタッフ。<六浦>

‘88年の入社以来、裁断から縫製まですべての行程をこなし、新パターンの開発なども担当する生粋のツナギ職人。<南>

日本を代表するライディングウエアブランドであり、レザースーツの老舗であるクシタニ。同社初のレザースーツ作成から60年余りも進化を重ね、そのノウハウは最新スーツはもちろん、レザージャケットやパンツ、テキスタイルウエアにまで色濃く反映されている。

そして、クシタニの技術と伝統の原点は、プロライダーが纏うフルオーダーのレーシングスーツにある。そこから市販レザースーツへと転化されるが、作成にかかる膨大な手間から素材に至るまで、プロ用のフルオーダースーツと何ひとつ変わらない。そんなクシタニのレザースーツは、果たしてどのように開発されているのだろうか?

「まず選手から上がってくる問題点や要望をクリアして行きます。市販スーツへのフィードバックも、そこが始まりです」と南さん。

「長く手掛けていますから、まったくゼロから開発……というものではないです。しかしマシンの性能もライダーの乗り方もが進化しますから、用具(レザースーツ)も合わせて進化する必要があります」と六浦さん。

とはいえプロライダーの要望だけを聞いていくと、ひたすら“尖った”方向になってしまうという。

「そこから市販品にフィードバックする技術もなくはないですが……、ある意味『選手スペシャルの方がハードルは高いけどラクかも』と言える部分もあります(南さん)」

そのため、クシタニ側から選手に提案する技術も多いし、反対に試作で形状化までしたが選手に出さなかったものも少なくない。

「いわゆるお蔵入りですが、10年前はダメだったけれど、今になって使えるモノがあったりもします。昔はあまりに手間がかかって作れなかったとか、乗り方やフォームが変わったことでマッチングするとか。だから今は日の目を見なくても、たくさん『引き出し』を用意することが大切。だからレーシングスーツって“進化させよう”ではなくて“進化
していくモノ”なんだと思います(六浦さん)」

「もの作りの仕事ですから、できればライダーたちの要望よりも自分たちのアイデアが“先”に行きたい、という気持ちもありますけれど……、やはり求める選手がいるから応えるものを作る、というのが大切なのだと思います(南さん)」

モータースポーツ、とりわけバイクのレースは、スポーツというジャンルの中ではかなり“特殊”であるため、そこで使われるレザースーツも、モノ作りとして特殊。万一の転倒に備える防具としての頑丈さや安全性を第一としながら、アスリートのウエアとしての可動域の広さや運動性の高さ、そして軽さ。さらに空力まで追求されるワケで、これほど要求の多いウエアは珍しい。

「乗り方の変化への対応は多いですね。近年は“ヒジ擦り”もしますから、腕や上半身の可動域が要求されます。スピードも上昇しているので、背中のエアロパッドは空力的に優れる形状が求められます。だから最新のNEXUS-Ⅱではシャーリングの面積が増えたりエアロパッドを小型化したりもしています。またスピードが高くなればけアクシデント時のダメージも基本的に大きくなりますから、プロテクション効果を高めることも必須。だから内蔵プロテクターも新型です。他にもかつては無かったチェストパッドの使用とか今後はエアバッグも増えますから、そうなると既存のサイズパターンだと着用時にキツくなる。そこに対応するサイズの汎用性なども考慮して開発を進めています(六浦さん)」

クシタニは市販レーシングスーツを数多くラインナップしているが、基本となるパターンはプロライダー用のオーダースーツがベースで、その最新パターンが昨年11月にアップデートしたNEXUS-Ⅱ。そしてレースシーンで使用される“GPバージョン”ともいえるプロライダー用のNEXUS-Ⅱは、すでに“次の仕様”へと歩みを進めている。

「そうやって“選手モノ”はどんどん進んで行くんですが、コレを市販スーツに落とし込んでいくのが難しいですね。どの技術をフィードバックするかは、もちろんコストや製作上の問題、製品のグレードもありますから。例えば転倒して傷んだ時のリペアやサイズ修正などのしやすさとかも大切です。一般ライダーの皆さんはもちろん、プロを目指すライダーも最初は市販スーツのイージーオーダーから始ますから、プライスやメンテナンス性も織り込んだうえでフィードバックします。ここは時間をかけてやっています(六浦さん)」

進化を止めずに、しかし愚直なまでにプロライダー、一般ライダーを問わずユーザーの側を向いて製品開発を行うクシタニ。

「新しいモノが出たら、それは“次のスタート”ですから。ですが、『コレどうだっ!』って、独りよがりなもの作りはしません。やっぱり使う人がいちばんで、当然、安心して使ってもらいたいですから(南さん)」

「ライダーの皆さんは、用具メーカーが出すもの以上の安全って、得ることができないじゃないですか。だから我々が『コレで良いや』ではダメなんです。手を抜かない、ラクしない。それがクシタニらしさなんだだと思います(六浦さん)」

――次回はクシタニ製品の核であり土台となる、とことんこだわる“皮”と“革”についてお伝えする予定だ。

ライダースクラブ編集部

1978年から続く、バイクを趣味として楽しむ大人のための二輪総合誌。創刊から一貫してスポーツバイクの楽しみ方を探求、時代に合わせて多彩なバイクライフを提案し続けているオピニオン・マガジンです。

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