Vol.2 バイク用の革は無い。だから作る
by RIDERSCLUB

  1. 日本のものづくり

たゆまぬ進化 × 変わらぬ伝統

世の中には様々な革があるが、じつは“バイク用の革”は存在しないそこでクシタニは、
ライダーを守るウエアを作るに足る革を求め革作りのプロであるタンナーと共に、独自の製法を生み出した

クシタニの革製品の企画のトップを預かる。入荷した革の品質チェックも、小澤さんの厳しい目によって行われる

レーシングスーツからテキスタイルウエア、そしてバッグ類までクシタニの製品は多岐に渡るが、その原点が“革”にあることは間違いない。戦後間もない1947年に革製品の製造販売店として創業し、バイクの街である浜松という土地柄から革ツナギを製造したことが、現在のクシタニに繋がっている。

しかし、バイク用の革製品は星の数ほど存在するが、材料として「バイク製品用の革」というものは、じつは存在せず、革の問屋さんが扱うさまざまな材料の中から選択して使っているのが一般的。ところがクシタニは、それを良しとしなかった。

「レーシングスーツやジャケットに革を使うのは、安全のためですよね、“革は強度が高い”という前提で。しかし、強度はもちろんですが撥水性とか伸縮性など、バイクウエアにはさまざまな要求があります。そこでクシタニは、タンナーさん(革を作る仕事)と協力して“バイクウエア用の革作り”からスタートしました」と小澤さん。クシタニは最初にレザースーツを手掛けた60年余り前から、姫路にあるタンナーさんと共に革を開発してきたのだ。

ちなみに動物の皮から製品の材料となる革になるまでは、さまざまな工程があり、そして革にもさまざまな種類(仕上げ方)が存在する。例えばレーシングスーツを作るには“大きな革”から裁断した方が各パーツの強度や風合いが安定するため着心地も良くなる。そこでクシタニは大きなホルスタイン種の皮を使うが、問屋から材料として皮を仕入れる際には、それを選ぶことができない。さらに言えば、一般的にはタンナーさんも仕入れる原皮を選べないのが一般的だという。しかしクシタニの仕入れ先であるタンナーさんは、クシタニの要望をかなえるためにキチンと原皮を確保する。コレは確かな信頼関係なくして不可能だろう。

「クシタニでは“伸ばした革”を使いません(伸ばして広げるので材料コストが下がる)。また“型押しの革”も、ウエアの強度や着心地に関わる部分には使いません。型押しすれば元々のキズや腐敗の跡が消えるので見た目は良いのですが、やはり強度にかかわりますから」

クシタニがレーシングスーツやレザージャケットに用意する革は、プロトコアレザーとエグザリートレザーの2種類。どちらもフッ素を浸透させる独自の製法で高い撥水性と透湿性を備えるが、この加工も含めてクシタニが製造特許を持っている。特許を取得するために製造方法を公開しているが、他にこの製法を用いるブランドは無いという。

「ツーリング用のレザージャケットは、さまざまな環境や着用時間を考えると、ある意味でレーシングスーツより過酷な使用条件です。そこでフッ素を浸透させたエグザリートレザーを開発し、自宅で洗濯できるなどメンテナンス性も高めました。レーシングスーツは雨で濡れたり汗をかいて重くなったり硬くなって運動性が落ちたらダメですが、じつはプロトコアレザーにもエグザリートレザーの技術が活かされています」

さらに近年、風合いと着心地を重視したアーバンユース系のレザージャケット用に、新たに“ダイフィニッシュレザー”も用意した。

「革は染色した上に塗装を施しますが、ダイフィニッシュレザーは塗装を行わずに風合いやしなやかさを狙っています。でも、塗装しないので原皮のキズや汚れが隠れませんから、使える革が非常に少ないんです(笑)。こんな革でレザージャケットを作っているのはクシタニだけですね」

じつはダイフィニッシュレザーを除けば、伸ばしたり型押しした“普通の革”も、いざ製品になると(革の)プロでない限り、クシタニが使う“バイク用の革”と、ほとんど見分けがつかないという。それでもクシタニは、とことん革にこだわる。

「革いう素材を、いかに製品づくりに活かせるか? その逆に、製品を活かすためにどんな革素材を用意すれば良いのか。そこがクシタニらしさではないでしょうか。それと、レーシングスーツは販売してから10年20年経った製品の修理依頼も多いんですよ。どんどん買い替えて貰った方が企業としては良いのでしょうが(笑)、長く着てもらえるのは、本当にうれしいですね」

プロトコアレザー

レーシングスーツやスポーツ系のレザージャケットのために開発。高い伸縮性と汗や雨天でも重さやベタつきを感じさせないフッ素による撥水機能(低吸水性)を持つ。強度と快適性を高次元で両立する

エグザリートレザー

フッ素を革の奥まで浸透させる独自技術により、少雨ならしのげるほどの高い撥水性を持ちながら、家庭でも容易に洗える。使用状況が過酷なツーリング系ジャケットやエクスプローラージーンズに採用

ダイフィニッシュレザー

一般的に革は染色+塗装を施すが、ダイフィニッシュレザーは染色のみで仕上げて革の風合いを生かし、非常にソフト。ルックスと共に着易さ、着心地を求めるアーバンユース系ジャケットに用いる

牛皮の表面から繊維層までフッ素を浸透させることで、半永久的な撥水性を持たせた。しかも内部からの透湿性が高いため、雨天でも濡れず、汗をかいても重くならずに快適

動物の“皮”から、製品の材料となる“革”に仕上げるのがタンナーという仕事で、実際の作業行程は20以上ある(以下は抜粋)。クシタニはタンナーさんと協力し、独自の製法(特許取得)でバイクウエア専用の革を作っている。レザースーツを手掛けて60年余り、この関係は変わらない

ライダースクラブ編集部

1978年から続く、バイクを趣味として楽しむ大人のための二輪総合誌。創刊から一貫してスポーツバイクの楽しみ方を探求、時代に合わせて多彩なバイクライフを提案し続けているオピニオン・マガジンです。

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