Vol.3 日々の経験とあくなき挑戦から生まれる
by RIDERSCLUB

  1. 日本のものづくり

たゆまぬ進化 × 変わらぬ伝統

素材の特性を見極め、完成時の効果をイメージしながら革を裁断していく機械まかせでは不可能な職人技は、日々の経験とあくなき挑戦から生まれる

革のライディングウエアを作りたくてアパレル業界から転身して25年。レザースーツの完成時や、転倒時まで考慮して皮を切り出す裁断のプロ「クシタニでは型押しした革を使わない。だから革を見れるようになりました」そう語るのはクシタニで裁断士を務める鈴木さんだ。

前回でも触れたが、クシタニのレザースーツやジャケットは、伸ばした革は使用しないし、型押しした革も強度や着心地に影響しないデザイン部分にしか使わない。
「伸ばしたり、型押しした革なら、牛1頭分の革でレザースーツを1着作れますが、クシタニでは使わないので1・5頭分が必要になります。それに型押しすれば元からあったキズ等も目立たないから、使える面積も増えますしね。さらにコシが強くなるので、一般製品のバッグ等には適しているかもしれません。それに硬くて平らなので、コンピュータ制御のカッティングの機械も使えるし、そうすれば無駄なく裁断できてコスト的にも有利になります。反対に型押ししない革は場所によって風合いが変わるし、反りもあるから機械でカットしにくいんです。効率悪いですよね(笑)。だけれど、そういう素材をどう使うのかを見極めるのが重要で、それが裁断士の仕事。料理人と似ていますね」

当然ながらレザースーツは強度が最優先され、さらに運動性も求められる。元からある革のキズは、転倒時にそこから裂ける可能性があるので、裁断時に避ける。またレザースーツは腕や胸、太ももなど基本的に“横方向”に伸びやすい方が動きやすいので、パターンを切り出す際には、革の伸縮しやすい方向に合わせる必要がある。そして切り出す前の革は、部位によって伸縮しやすい方向やしなやかさ、風合いも変わるため、どこを選ぶかが重要になるし、レザースーツの左右半身のパーツで異なる伸縮方向や質感で裁断したら、当然ながら着用したときに違和感が出てしまう……。それらをすべて考慮したうえでパーツを切りだす場所や方向を決めるは、まさに職人技だ。

「牛のお尻の側面辺りの革が上質な部位なんですが、そこだけ使うわけにもいきませんし。出来るだけ無駄なく裁断しないとコストが上がってしまいますから。そういう部分も含めて、伸ばしたり、型押していない革を扱うのは大変なんですけど、それだけに革を見ることができるようになるんですね。でも、革を仕入れる検品担当とは、よくモメますけどね(笑)」

裁断士は専用のカッターでスイスイとパーツを切り出す姿が印象的だが、じつはその前段階から知識と経験をフル回転させている。レザースーツのパターンは非常に複雑で、そのパーツがどこの部位でどの方向に使われるのか、一見しただけでは分からない。しかし、クシタニの工場で働く職人たちは、裁断や縫製など担当は分かれているが、じつはすべての行程を兼務できるスキルがある。だから、一瞬でどう切り出すかを判断できるのだ。

そしてクシタニの裁断士は、縫製前のネーム以外のすべてを用意する。裏地の裁断やプロテクターのウレタンのカット、パンチンググメッシュの加工をしたり、シャーリング部分も裁断士が作る。ちなみにレザースーツのイージーオーダー(袖や裾の長さや太さの変更など)は、革から切り出す際にベースのパターンから寸法を修正するが、その修正・調整方法を考えるのも裁断士だ。

「レザースーツづくりの全部ができないと、何を優先すればいいかの判断ができませんから。幸いここ(本社工場)では、プロライダーのレーシングスーツもすぐ横にあって、転倒したスーツのどこがどんな方向に傷むのか? をよく見ています。

 

最近はプロの選手に限ってなのですが、“革の繊維の向き”に注意してテスト的に行っている事があります。革の裏側(いわゆるバックスキン)の繊維の方向を転倒した時の擦れる方向に合わせて裁断すれば裂け難いんじゃないかと……。本当に効果があるのかは検証中ですが。

じつは僕、昔はアパレル業界にいて、たまたまバイクが好きで、レザーのライディングウエアが作れたら良いな~って、クシタニに入社しました。でも入ってビックリ、正直言って、ウエア作りに“裁断”のイメージなんてまったくなかったんですが、やるほど奥が深くて毎回チャレンジ。で、25年経ちました(笑)」

そんな鈴木さんだけに“クシタニらしさ”を感じる部分は大いにある。

「お店(クシタニ・プロショップ)からのオーダーや意見が、工場にダイレクトに入ってくるので、お客様の望まれているフィット感や着心地といった傾向が見えてきます。こうした声を参考にしながら製品のサイズ修正に活かすところや、プロテクションとの兼ね合い等も難しいですがそこに挑戦していくのもクシタニらしさかもしれませんね。

関連記事