Vol.8 クシタニのデニムは”糸”から作る
by RIDERSCLUB

  1. クシタニの製品は

バイク用なら強度と運動性を求めるのは当然……だが、そんなデニムは存在しない

求めるものが無いのなら作れば良い。そのアプローチは革製品と変わらない

たゆまぬ進化 × 変わらぬ伝統

安全性や運動性など、ライディングにもっとも適したウエアといえば、当然ながらレザースーツ。とはいえ現実的に普段乗りやツーリングで革ツナギを着用するライダーはかなり少なく「ライディングジャケット&ジーンズ」がメジャーなスタイルといえるだろう。

ボトムに関して言えば普段からジーンズを履いている方は多いし、バイクに乗る際は「丈夫なズボン=ジーンズ」という図式もあるだろう。そのためクシタニも、ジーンズをはじめワークパンツやライダースパンツなど、何種かのデニムパンツを用意している。……が、近年数多くリリースされる『バイク用のデニム』と、クシタニ製品は決定的に異なる部分がある。それはデニム生地を『糸から作っている』ところだ。

たとえばアパレルメーカーが製品を作る多くの場合、自社でデザインやパターンを考え、生地メーカーや問屋さんが用意する既存の生地を選び、自社もしくは縫製メーカーで生産するのが一般的だ。

そしてジーンズの場合は、多くのアパレルメーカーが“日本のジーンズ発祥地”として有名な岡山県の児島に依頼している。児島は古くから綿花の栽培が盛んで、糸を紡ぐ撚糸業や染色、織物から縫製業などが軒を重ねる。そして70年代初頭に国産デニム生地が開発され、ジーンズの生産が本格化。現在も数百社の関連業者が集まり、世界有数のジーンズ産業集積地となっている。

そのためクシタニのデニムパンツも、生産は一貫して児島。自社で革やテキスタイルの裁断や縫製を行っているから、もちろんデニムパンツの生産は可能なのだが、ジーンズに関しては“餅は餅屋”という考えで児島に依頼しているという。

「ですが、クシタニのデニムは生地を織る前の“糸”からオーダーしているんです」と櫛谷信夫さん。

ファッションや衣服に詳しい方はご存じだろうが、綿糸を織った生地のことをデニムと呼び、そのデニムを藍染めして作ったパンツがジーンズだ。ちなみに近年メジャーなストレッチジーンズは、綿と伸縮性のあるポリウレタンを混紡した糸で織ったデニムで作られている。

「製品名を見ていただくと分かりますが、しなやかな上に通常のナイロンの7倍の強度を持つ“コーデュラ”を使っています。綿74%、コーデュラ24%、ポリウレタン2%の混紡の糸をオーダーして製作しています」

 ちなみにコーデュラは、世界的な化学繊維などの総合企業であるインビスタ社の登録商標。他にも高強度のナイロン素材としてはバリスティックナイロンも有名だが、こちらはけっこう硬いため、着心地やライディング時の運動性を優先して、軽くてしなやかなコーデュラを選んだ。  しかし、当然だがそんな特殊なコーデュラナイロンは、素材の価格が高い。だからデニム生地のために24%も使うのはまったく常識外で“なんでそんなに入れるの?”と製造元にも驚かれたという。

さらに織る段階でもクシタニはこだわりを通した。生地は縦糸と横糸で織っていくが、一般的なストレッチジーンズなどは縦糸には綿100%の糸を使い、横糸のみポリウレタン混紡の糸を使う。それでも十分なストレッチ(伸び)機能を発揮するからだ。しかしクシタニのデニムは縦糸も横糸も前出の“クシタニ仕様の糸”で織っている。そのため当然ながら原価も上昇していく。

「だから織屋さんにも“そこまでやる必要あるの?”って心配されました(笑)。もしかしたら必要ないかもしれませんし。でも、しなやかで強度が高く、伸縮性のある専用の糸を縦にも横にも使えば、革やポリエステルには及ばないですが、デニムとしてはかなり高強度で、しかも運動性の高いモノになるじゃないですか。そうでなければ、普通のジーンズとあまり変わらないと思いますし……。バイク用のジーンズとして最上級の安全と履き心地を提供するのが、クシタニのクォリティだと考えています」と信夫さん。

以前の本企画で『バイク用の革は無い。だから作る』(19年8月号の連載Vol・2)を紹介した。世の中には素材としてさまざまな革が流通しているが、“バイクウエア用の革”というモノは存在しないため、クシタニはタンナーさん(革を作る仕事)と協力して、専用の革を作っている。じつはデニムに関しても、まったく同じ考え方だ。

「もちろんパターンや補強など、ライディングに大切なノウハウは持っていますが、ジーンズの場合は通常のストレッチデニムを使えば、履き心地などはそれほど変わらないかもしれません。だからこそ踏み込む必要があり、中途半端なものは作れないんです。アプローチの仕方は革製品と同じかもしれませんね」

ライダースクラブ編集部

1978年から続く、バイクを趣味として楽しむ大人のための二輪総合誌。創刊から一貫してスポーツバイクの楽しみ方を探求、時代に合わせて多彩なバイクライフを提案し続けているオピニオン・マガジンです。

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