オグラは不思議なライダーだね。

  1. ロードレース

「若いのにベテランのようなレースをする」-アルベルト・プーチ-

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「オグラは不思議なライダーだね。若いのにベテランのようなレースをする。走っていて、一番まわりが見えている。タレントカップのような小排気量クラスでは重要なことだ」
2016年10月、MotoGP日本グランプリと併催されたアジアタレントカップ。2レース制の、そのレース2で優勝した小椋藍について、当時のアジアタレントカップのディレクターに聞いた話をよく覚えている。コメントの主はアルベルト・プーチ。現レプソルホンダのマネージャーを務める、あのアルベルト・プーチだ。
2019年にMotoGP世界選手権にデビュー、Moto3クラスにフル参戦を開始した小椋を見たときに、あのプーチのコメントを思い出したのだ。
小椋は2001年生まれ、2021年の1月にようやく21歳になった。

「カレンの弟」

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「おぐらあい」の名前は、10年ほど前には、違った形でレース関係者の耳に届き始めていた。それは「カレンの弟」というもの。
カレンとは、小椋の2歳上の姉である、現オートレース訓練生である小椋華恋のこと。可愛くて速いフルバンク女子――小学生の頃から、ポケバイレースで目立つ存在だった「めだまカレン」こと華恋にくっついている大人しい弟、それが「めだまアイ」こと藍だった。
華恋に少しずつ遅れるように、ポケバイからミニバイク、そしてロードレースへと歩みを進めた藍。華恋がレディスロードレースでチャンピオンを獲り、J-GP3やCBRカップに進むころ、藍は主に筑波サーキットで、型遅れの2ストロークマシンでひたすら練習を重ねていた。ぼろぼろのカウルで、何度も何度も転びながら、それでも藍は走っていた。
藍がアジアタレントカップを卒業、スペインのMoto3ジュニア選手権にステップアップするころ、華恋と話したことがあった。
「やんなっちゃう、最近は『藍選手の姉』って言われるんです。前は藍が『華恋の弟』だったのにね」
華恋は笑顔だった。きっと、世界に飛び出していった弟を誇らしく思っていたのだろう。

コロナ禍の2020年シーズン、アウェーの欧州で8戦連続トップ4入賞

2019年、小椋のデビューは将来に期待を抱かせるものだった。そのデビューシーズンは、最高位2位を含むランキング10位。2015年にデビューした鈴木竜生は28位、2017年デビューの佐々木歩夢は20位、鳥羽海渡は30位が最初のランキングだ。
そして2020年、グランプリ2年目の小椋は、デビューイヤーよりはっきりとレベルアップした走りを見せた。開幕戦カタールで3位表彰台を獲得すると、他マシンの転倒に巻き込まれてノーポイントに終わった第3戦アンダルシアをはさんで、8戦連続トップ4に入賞してみせたのだ。
レースっぷりは、アジアタレントカップ時代から変わらず、10台15台からなるトップグループにつけたまま、終盤にいつのまにか上位に進出して、少ないチャンスを生かしてトップに出るスタイル。これが、プーチの言う「若いのにベテランのような」レースだ。
今のMoto3は、本当に勝ち方が難しい。ずっとトップに立って逃げ切るのは至難の業で、10台15台と連なるトップグループで、ひとつのコーナーごとに順位を入れかえ、さっきトップを走っていたライダーが、次の周には平気で5位、7位、10位にポジションダウンしていたりする。
そんな中、いちばん難しいのは「コンスタントに上位フィニッシュを続ける」こと。小椋はその意味で、2020年に文句なく世界ナンバー1ライダーのひとりだった。
コロナ禍に振り回された2020年シーズン。開幕戦のカタール以外は、すべてヨーロッパで消化された。当然、小椋にとってはアウェーの戦い。スペイン人のアルバート・アレナスやイタリア人のトニ・アルボリーノに有利なシーズンだったはず。
2021年は同じチームアジアから、Moto2にステップアップすることが決まっている。子供のころから戦ってきた佐々木歩夢や鳥羽海渡を追い越しての、ひと足早いMoto2参戦だ。

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そういえば2016年のあのもてぎで、プーチにもうひとつ質問したのだった。
――プーチさん、タレントカップの日本人ライダーの中で、誰がいちばんMotoGPに近いだろう?
プーチは急ぐ足を止めながら、言い切った。
「アイだ」
MotoGPクラスを走る小椋を、早く見たい――。

小椋藍(おぐら あい)
2001年1月26日生まれ、埼玉県出身
2017年Moto3ジュニア世界選手権で総合8位。2018年5月開催の世界選手権ロードレース第4戦スペインGPMoto3クラスに、ワイルドカード枠で出場しグランプリデビュー。2019年よりホンダチームアジアからMoto3クラスにフル参戦開始。2020年は2年目ながらチャンピオン争いを展開するが、ランキングは総合3位。2021年は同チームよりMoto2クラスに参戦する

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