2025年シーズン、クシタニがサポートする小椋藍選手とソムキアット・チャントラ選手が、MotoGPの最高峰クラスデビューを果たしました。2013年から、クシタニは世界に挑戦しようとする若いアジアのライダーをサポートし続けてきました。小椋選手とチャントラ選手のMotoGPクラス参戦は、クシタニにとって、35年ぶりの世界選手権最高峰クラスの舞台でもありました。
再び最高峰へ。クシタニ×小椋藍×チャントラ、世界への挑戦【前編】では、クシタニ社長である櫛谷淳一さんと、クシタニ東京社長である櫛谷信夫さんが、クシタニが世界選手権に進出することになった契機からその道のりをお話ししました。
後編では、日本のメーカーであるクシタニがMotoGPに参入することの厳しさや、それを乗り越えて10年以上継続した末にたどり着いたMotoGPクラスと、今後の展開を語ります。
日本のメーカーがMotoGPに参入する難しさ
クシタニ社長 櫛谷淳一さん(以下、淳一さん):2013年のジュニア・タレント・チームへのサポートから始まり、2025年、ついにMotoGPクラスに小椋藍選手、ソムキアット・チャントラ選手というクシタニのレーシングスーツで走るライダーが誕生しました。もちろん、ここまで簡単な道のりではなかったですよ。

レーシングスーツをつくるメーカーとしては、MotoGPの最高峰クラスにたどり着きたいですよね。でも、MotoGPライダーにクシタニのレーシングスーツを着てもらうまでには、とても時間がかかるし、新しいメーカーが「MotoGPに参入したいので、翌シーズンから誰かに着てもらおう」といったことはできません。よほどのネットワークでもない限り、ぽんと新規参入するのは難しいわけです。ヨーロッパのメーカーは、ヨーロッパだからできることなんですよ。僕たちは長い時間をかけてアジアのライダーたちをサポートしてきました。だからこそ、2025年に最高峰クラスにたどり着くことができました。
クシタニ東京社長 櫛谷信夫さん(以下、信夫さん):ヨーロッパのメーカーは、海外でのマーケット量が全く違うんですね。日本のメーカーにとってMotoGPへの参入が難しいのは、投資をしても、海外で商品を展開できないということも一つの理由です。海外でしっかり収益を上げない限りは、継続ができません。継続しなければMotoGPクラスにたどり着くことはできませんが、その継続が難しいのです。
ヨーロッパに拠点があれば、移動費も含めて経費を抑えられます。けれど、僕たち日本のメーカーの場合は、ほぼ全てのグランプリがオーバーシーです。莫大なコストをかけながら、取り組み、開発をしていく以上は、間違いなく、同じように売る仕組みを作らなければなりません。
でも、やっとMotoGPクラスにたどり着きました。ここから次のステージのプランを立てていけます。そう思うと、今年はすごく大きなターニングポイントです。これからだな、と思います。
つまり、世界で見てもらえるようなMotoGPの最高峰クラスというトップカテゴリーに装具を供給していくということは、クシタニの製品を世界的に手に取ってもらえるフェーズに入っていくんだろうなと思います。日本のマーケットだけではなく、アジアのマーケットから、それ以外のエリアに関しても商品を送りこみたい。それが、僕たちの次のステージになるのかなと思っています。
日本から世界へ。韓国のレーシングギア専門店「KUSHITANI RACINGSPEC. STORE KOREA」
信夫さん:クシタニは2月22日、韓国にレーシングギア専門店「KUSHITANI RACINGSPEC. STORE KOREA」をオープンしました。これも、海外展開の一環です。
韓国や中国、南アジアブロックに関しても、ロードレースからクシタニを知って「クシタニってこういうのがあるんだ」と、興味を持っていただく方も多くなっています。たまたま韓国が先に始まりましたが、このあとタイやマレーシアでもお店をオープンさせる予定です。マレーシアは1店舗目なので、レーシングギア専門店ではなく、ツーリング向けも販売する店舗になりますけどね。
韓国は、サーキットが大小問わず四つくらいしかないんですよ。全日本のような国内選手権がないので、クシタニ・コリアの人たちが、地方選手権で600㏄、1000㏄クラスのレースをオーガナイズしています。
四輪と併催なのですが、地方選手権なのにテレビ中継されているんですよ! 四輪のレースは人気があるので、そのあとに二輪のレースを開催することで、そのまま見てもらえるような取り組みをしています。ロードレース人口は少ないと思いますが、少しずつ見てもらう機会が増えてきていますね。
10年前、ブリーラムのお寺で願掛けをした
淳一さん:2025年、こうして最高峰クラスにたどり着きましたけど、これまで大変だったな、と思いますし、これからも頑張らなければいけないな、とも思いますね。
信夫さん:10年前、ブリーラムのお寺に行って、願掛けをしたんです。日本では、おみくじを引いて木に結ぶでしょう。タイのお寺では、お金が刺さっているんですよ。だから、僕たちも100バーツを木に挟みました。こちらでこういう仕事をするから、成功したらいいね、と。本当に感慨深いですよ。
淳一さん:クシタニにとって、世界選手権の最高峰クラスは僕たちが10代のころに祖母や父が一度、経験していることなんです。けれど、僕たちが入社したころにはもうそんな時代ではありませんでした。もう最高峰クラスでクシタニのライダーが走ることなんてないんじゃないか、と、心の半分で思っていたくらいなんです。
信夫さん:そう思っていましたね……。僕たちが小学生、中学生だったころ、祖母に連れられて行った日本GPで、「この人が(ワイン・)ガードナーだよ」と紹介されたのを覚えています。35年前の日本GPでした。それが、クシタニにとって最高峰クラスの最後だったんです。これまでのね。
淳一さん:35年経った今、MotoGPの最高峰クラスにクシタニのレーシングスーツを着ているライダーが走っているんです。僕たちが働いているうちに、達成することができました。達成したことによるプレッシャーもありますし、頑張らなければ、という思いもあります。
そして、今後も継続していきたい。そう思いますね。


小椋藍とソムキアット・チャントラが着用するレーシングギア
クシタニがMotoGPライダーの小椋藍とソムキアット・チャントラに供給するレーシングスーツは、NEXUS2(ネクサス2)がベースとなっています。
MotoGPライダーである彼らは製品開発を担っていますが、専用製品ではなく、市販されているNEXUS2は、小椋やチャントラが着用しているものと全く同じフィロソフィーで作られています。
また、彼らが使用するブーツはSUPERTECH R2 × ProtoCore Leather Model(スーパーテックR2 × プロトコアレザーモデル)、グローブはGPV GLOVES II(GPVグローブ2)です。性能は市販されている製品と全く同じで、異なるのはカラーリングのみです。
クシタニは、レースの現場で必要なアップデートを随時行っています。例えば、MotoGPクラスでは、エアバッグの搭載が義務付けられています。転倒してエアバッグが膨らんだとき、内圧がかかるためにレーシングスーツ外側の損傷が激しくなります。こうした損傷によってライダーの肌が露出することがないよう、裏側にあて革をするといった補強など、細やかなアップデートを日夜行っています。
こうした細やかなアップデートは、市販されているレーシングスーツも同様です。ライダーを守るためにやるべきことは、すぐに製品に反映する。それが、クシタニのスタンスなのです。
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PHOTO/LCR Honda, Trackhouse Racing



