“オフテクをマナボウ”では、全日本モトクロス選手権IA1クラスで5度チャンピオンを獲得し、世界選手権にも出場した経験を持つ山本鯨氏を講師に迎え、オフロードバイクのライディングテクニックを学んでいく。
#09 プロ直伝! フロントアップ
第8回では、岩や木などの障害物をどう攻略していくのかについて学んだ。特に凸凹の大きい岩場では足を着いてゆっくりと障害物を乗り越える方法が安全だが、レースなどスピードを重視する場合はフロントタイヤを浮かして乗り越えていく「フロントアップ」というテクニックが有効だ。ではどうやってフロントを上げるのか? 今回はその方法について解説していく。
フロントアップとは
フロントアップをすることで、障害物を乗り越える時にハンドルが振られるリスクが減り、意図する方向にマシンを進めやすくなる。さらに、フロントサスペンションが伸びるため、フロントアップしてから障害物に当たったとしても衝撃を吸収しやすく、マシンが暴れにくくなるため、スムーズに乗り越えることができる。少し難易度が高いテクニックだが、特に木や岩など大きい障害物を走破するためのスキルアップとして、欠かせないものとなる。
フロントアップの方法
フロントアップをする際、ハンドルを力任せに引っ張ってフロントタイヤを上げる必要はなく、タイミングに合わせてアクセルとクラッチを操作することでフロントは上がるという。仕組みとしては、エンジンの回転数を上げた状態でクラッチを離すとマシンは急発進する。このタイミングで荷重を後ろにかけることでフロントタイヤが浮く、というわけだ。とはいえ、いきなりフロントを上げるのは、バランスを崩さないか、フロントが上がりすぎないかなど怖いと感じるライダーも多いだろう。アクセル開度やクラッチで調整しながら、徐々にその感覚を掴んでいくことをおすすめする。
なお、フロントアップの方法として、クラッチを使う場合と使わない場合がある。クラッチを使うメリットとしては、効率的に回転数を上げることができるという点が挙げられる。高回転時にクラッチをつなぐことで瞬発的にフロントタイヤを高く上げることも可能。さらに、バイクを止めた状態からでも回転数を上げることができるため、高さのある障害物を乗り越える時や、障害物への助走距離が少ない場合などに使いやすいだろう。
回転数の感覚を掴む
「回転数を上げる」ということだが、2000-2500rpmほどの低回転でも十分にフロントタイヤは浮かせられるという。しかし、その程度の回転数だとエンストする可能性もあるため、初心者はもう少し回転数高めの方が練習しやすいだろう。ただし、ちょうど良い回転数というのはマシンによっても異なるため、実際に練習を重ねる中で一番安定する回転数がどのくらいなのか、感覚で掴んでほしい。
荷重のかけ方とクラッチワーク
これまではアクセルとクラッチのみでフロントを上げる方法を解説してきたが、同時に荷重移動を行うことで、よりフロントは上げやすくなる。荷重のかけ方としては、後ろに荷重を移動させるタイミングでクラッチを離す。山本がやっているように一瞬だけフロントブレーキをかけて荷重をフロントに移し、そこから後ろ荷重に移行しながらアクセル・クラッチを操作するのが最もフロントを上げやすい。ただし、荷重移動とクラッチを離すタイミングがずれるとトラクションが抜けてしまうこともある。特に最初はこのタイミングが掴めず、マシンが安定しなかったり、フロントが浮かないこともあるだろう。やはり、いつでもどこでもミス無くフロントを上げられるようになるには相当の練習が必要だ。
なお、指からクラッチを離してしまうとフロントが上がりすぎた時の対処が難しくなったり、エンストになる危険性があるため、山本は常にクラッチに指をかけているという。こちらも参考にしていただきたい。