世界一バンク角の深い男、フラットトラック界の雄 | ULTRA RIDER 大森雅俊

中学に上がるころ、引っ越し先でできた友達のお兄ちゃんがフラットトラックをやってて。それを空き地に見に行ったんですよ。バイクのこと、何もわかんなかったけど、うわーすげぇ、かっけぇ! って思ったんです。毎週のように通ってたら、ある日突然、お前も乗れって話になって。まずは貸してもらったモンキーでクラッチ操作から教わって乗るようになりました。そしたら今度は、お前レースに出ろって言われて。バイク持ってないからって断ったら、「じゃあ、お前バイクがあれば出れんの?」って返されて。そこで「はい」って言っちゃったんです。そしたら次の週、仲間うちで使ってなかった200ccのバイクが用意されてて、これで練習して出ろって。カッケーって思ってたし、気持ち的にはもちろんやりたかった。でも、フルカウンターで走ることなんてできないし、当時身長も150cmくらいしかなかったから、バイクは重いし、足も届かない。親は危ないからやんなくていい、って感じだし、もちろんトランポも工具もウェアもない。ただ、バイクはある。結局、一回レースには出たけど、まともに走れなくて。でも、それでドンドンのめり込んでいったんです、自分が。練習はもちろん、バイク屋を手伝ってバイト代の代わりに整備を教わったり、ママチャリで片道30km先の用品店まで廃タイヤをもらいに行ったり。それで気づいたら100ccで優勝して、250ccでもチャンピオンになってました。

フラットトラックって単純じゃないですか。フロントブレーキがないバイクで左回りにぐるぐる回るだけ。誰でもできそうだけど奥深い。あと、何より見ててカッコいいし、わかりやすいですよね。誰が先頭でどういう走りをしているのか、どこで勝負を仕掛けるのかとか。で、常に滑ってるじゃないですか。コースがデカくなるほど、バイクが滑りながらコーナーに消えていって、滑りながら立ち上がってくるんですよ。ヤバくないですか? ヤバいっすよね? どこで見てても、すべてカッコよく見えるのがフラットトラックなんです。いまは自分のチームの子とかに教えてるんですけど、この前、模擬レースで派手に転んだ子がいて。転ぶのは構わない。でもレースを止めるんじゃない。そんな転び方するくらいなら抜くなって教えたんです。やっぱりレーサーってエンターテイナーなんで、レースを止めることは俺ん中でNGなんです。ヨーイドンでゴールするまでがレースなんで。もちろん結果は大事。でも、走り切るのも大事なんで。ケガはするな。転ぶな。そのなかで自分の走り方をしなさいと。勢いは大事なんだけど、レースを止めてしまうと悪循環しかない。お客さんも、レースってやっぱ危ないなって思っちゃうじゃないですか。エキサイティングですごい面白かったね、で帰ってもらいたいんですよ。そこはライダーが守らなきゃいけない。演者なんで。

イベントでもレースでも出発、クルマにバイクを乗せるとこから誰かに見られてるって意識してます。バイクもウェアも俺のなんですけど、メーカーさんの看板が入ってる時点で、俺だけのじゃないんです。汚れてたらなんだこれって思われるじゃないですか。逆に、いいウェア着て、カッコいいトランポからキレイなバイクが出てきたら、あいつカッコいいってなりますよね。運転中もトランポを開けたときも、写真撮る人は撮るんですよ。だからすべていつ見られてもいいような状態にしてます。同時にレーサーとしては常に速さを求めてます。でも、ただぶっちぎるだけじゃなく、やっぱりみんなはエキサイティングなところを見たいので、そこも心がけてます。ちょっとしたアクションを起こすんです。滑りながらフロント上げたりとか。どの瞬間も、見てる人を楽しませるっていうのはプロライダーとして重要なので、俺が思ってるのは見てる人に興味を持ってもらえる走り。これをしないとモータースポーツは流行らないので常に心がけてます。レースでもわざと後ろからスタートしたりとか、わざと一回抜かさせて最終的にファイナルラップの最終コーナーで抜き返すとか、計算しながら走ってますね。

ここまで来るのにいろんなことがありましたけど、18くらいからアメリカと日本を半年おきに行き来してライセンス取って、向こうでプロのレースに出て名を売り、表彰台にも何回か上がったんです。でも、震災でもてぎが使えなくなって、2年間レースできない、アメリカにも行けなかった時期があります。そんときはずっと大洗の海岸で海見てて、俺終わったなって思ってました。けど、この海越えれば向こうには奴らがいる。向こうに行くに俺はいま何をすべきなのか冷静に考えた結果、当時やってた大工さんの仕事に打ち込んで、資金を貯める時期だと思って耐えたんです。こういう考え方はレースで覚えました。レース中、勢いで行くのって、フィフティフィフティか、それよりダメな確率が高いんです。だったら完全に行けるときを狙ったほうがいい。そのためには準備が必要なんです。みんなから借金作ってでも行っちゃえって言われましたけど、練習できない、まともにバイク走らすこともできてないのに、それで一発勝負してケガしたり予選落ちしたりしたらどうすんの? って。お金は何かが来るときまで一旦プールしとこうと。絶対、海外行って勝ちたいんですよ、絶対なんですよ、絶対。今年だけサポートするよで終わったんじゃ続かないんで。勝つためには何が必要なのか、常に考えてます。

最後に、イッちゃてること言っていいですか? 俺、バイクと会話できるんです。わかるんですよ、いまコイツが何を言ってるか。どんな気分なのか。バイクがもっと開けろ、もっと行けって言うのが聴こえて、マジか。俺はもっと行けんの? もっと行くよ? もっと行くよ? って答えるんです。レースだけじゃなく、イベントで走らせても聴こえてきます。漫画の「頭文字D」とか「湾岸ミッドナイト」とかってそうじゃないですか。あの気持ち、マジでわかりますもん。本気でわかる。でも、全部のバイクと話せるわけじゃないんです。そのバイクがいいとか悪いとかセッティングがどうとかじゃなく、相性なんです。このKXとも会話できてるんで、ガレージにしまって帰宅しても、いまこいつがどういう状態なのか伝わってくるんですよ。通信してるんです。だから大事だし、かわいくてしょうがない。相棒ですよね、相棒。……コイツ、イッちゃってんな、って思ってるでしょうけど、俺には聴こえるんです。

Photography / SHIMIZU SOSUKE
Text / HIGOSHI SHOTAMoto NAVI
Edit / HIGOSHI SHOTAMoto NAVI
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