アジアロードレース選手権で展開するクシタニのレーシングサービス。現場で得られるフィードバックとは

クシタニではアジア展開の一貫として、アジアロードレース選手権(ARRC)のライダーへレーシングスーツのサポートを行っています。2018年シーズン、クシタニはA.P.Honda Racing ThailandとAstra Honda Racing Teamに所属するライダーと、YAMAHA Racing Team ASEANのケミン・クボ、そしてタイ国内の登竜門的レースであるタイ・タレントカップに参戦する全ライダーをサポートしました。

ARRCはアジアを転戦するレースで、2018年はタイで開幕戦と最終戦の2戦、オーストラリア、日本の鈴鹿サーキット、インド、インドネシアで全6戦が開催されました。そんなARRCのレーシングサービスは、どのように行われているのでしょうか。今回は、ARRC第6戦タイラウンドでARRCにおけるクシタニのレーシングサービスの模様を現地取材。KUSHITANI代表取締役社長でありクシタニのアジアの拠点Kushitani Thailandを統括する櫛谷淳一氏と、現場スタッフの声をお届けします。

暑さが厳しいARRCだからこそ、必要を感じたファスナーの素材変更

「ARRCのレーシングサービスでは、基本的に接着剤や塗料を用いてライダーがレースを走れる状況を作ります。あとはワッペンなどの交換ですね。タイラウンドの場合はミシンでの修理を行い、タイ以外のラウンドではKushitani Thailandで修理を行います」

「クシタニのレーシングスーツには、重要な部分にはさらに一枚、革をあてています。ミシンが必要な修理というのは起こりづらいんですよ」

それでも苛烈に争われるレースのなかでは、レーシングスーツが激しく損傷することも。そんな場合はサーキットではなく、タイのバンコクにあるKushitani Thailandへ持ち帰って修理を行うそうです。Kushitani Thailandではミシンはもちろんのこと、日本とほぼ同じサポート体制が整っています。

サーキットでテントを立て、レーシングサービスを行うクシタニ。レースウイーク中にはサポートを受けるライダーはもちろんのこと、クシタニのレーシングスーツに関心を寄せるお客様も、このクシタニテントにいらっしゃいます。

櫛谷社長や現場スタッフはレーシングスーツを修理するかたわら、ライダーのみなさんやお客様対応も行っています。下の写真はクシタニのテントを訪れたムクラダ・サラプーチ選手(写真左)の話を聞く櫛谷社長(写真中央)と、現場スタッフのメイさん(写真右)。

ARRCでは暑い地域でレースが開催されています。これまでにどのようなフィードバックを得て、それはどう製品に反映されたのでしょうか。

「今年に関しては、暑さという点でいろいろ試行錯誤しているのですが、汗をかいて劣化してしまうところを改良していきたいと思っていますね。クシタニでは安全面を考えて、スチール製のファスナーにこだわっていました。プラスチックに比べて強度があるからです」

「ただ、(ARRCのように)暑い環境下でレザースーツを着用すると、汗が鉄に付着して、さびを生じてしまいます。それでファスナーの動きが悪くなったり、だめになることがあるんです」

このような劣化は、日本の鈴鹿サーキットで毎年7月末に開催される『鈴鹿8時間耐久ロードレース』のように数日限りなら問題になるものではないけれど、ARRCのように東南アジアでシーズンをとおしてレーシングスーツを着続ける場合には劣化してしまう部分なのだと、櫛谷社長は言います。

「なので、使えなくなってしまうならばコイル(プラスチック)ファスナーに変えていこうということになりました。軽量化もはかれますからね。来季の契約ライダーに関しては、コイルファスナーに変えていきたいという要望を出しているんです」

Kushitani Thailandスタッフが語るARRCレーシングサービス

それでは、実際に修理を担当する現場スタッフはどのように感じているのでしょうか。ARRC第6戦タイラウンドでクシタニのレーシングサービスを行っていたのは、Kushitani Thailandスタッフのメイさんとトゥーさん。

メイさん(写真左)は今年大学を出たばかりの23歳。英語に精通し、若くしてKushitani Thailandのマネージャーを務めています。トゥーさん(写真右)はこれまでタイシルクの洋服やレースを使ったドレスなど、主に婦人服を作っていたベテラン。Kushitani Thailandに入社し、クシタニで使用するミシンの使い方などを学んだと言います。

「レーシングスーツの修理で最も心掛けているのは、スポンサーロゴですね。あとは、カラーリング。転倒すると塗装が剥げて黒くなったり、汚れてしまいます。そこをきれいにして、ペイントで塗るんです」と語るのはメイさん。

1着のレーシングスーツを修理するのに、一人で対応するとだいたい2時間かかると言います。そこにサービスが必要なレーシングスーツが何本も舞い込むと、てんてこまいになってしまうこともあるのだとか。

実際、取材をしたARRC第6戦タイラウンドでも、午前中に同じライダーが2回転倒。一人に提供しているレーシングスーツは2着ですから、午後の走行までに1着は走れる状態に仕上げなければならない……、という火急対応を迫られるシーンもありました。

作業は黙々と行いながらも、テントにやってくるライダーやお客様には笑顔を向けていたふたり。実は、メイさんもトゥーさんも、クシタニで仕事をするまで二輪ロードレースを見たことがなかったそうです。

そんなふたりにレースについて聞くと、メイさんは「クシタニのレーシングスーツを着ているライダーが勝てばとても楽しいです」との答え。トゥーさんは「レースのラストラップが、とてもエキサイティングですね」との回答が返ってきました。

さらにメイさんは、「クシタニのレーシングスーツを着ているライダーが走っているのを見ると、(私の仕事の)モチベーションにもなるんです」とも。サーキットでクシタニ製品を身に付けるライダーたちの活躍を楽しみながら、仕事に向かっているようでした。

クシタニのレーシングスーツはARRCという厳しい環境下で使用されることで新しいフィードバックを得て進化し、そしてまた、そんなARRCのライダーたちを現場スタッフの尽力が支えています。

アジアロードレース選手権(ARRC)とは?
アジア各地のサーキットで開催されるロードレース選手権です。1ラウンド2レース制となっており、2018年シーズンはタイ、オーストラリア、日本、インド、インドネシアの5か国で全6戦12レースが行われました。クラスはスーパースポーツ600(SS600)クラス、アジアプロダクション250(AP250)クラス、アンダーボーン150(UB150)クラスの3つ。各クラスともに市販車ベースのマシンで争われます。なお、2019年シーズンからは最高峰クラスとしてアジアスーパーバイク1000(ASB1000)クラスが新設されることが発表されています。また、来季からはインドとインドネシアラウンドがなくなり、代わりにマレーシアラウンド2戦と韓国ラウンドが加わって全7戦となりました。

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