とくと見よ、これが初参戦ライダーの戦いだ!/もて耐奮闘記

参加資格の取得とともに、スキルアップにも取り組みました。まだ寒い時期には、ライディングスクールの講師も務めるゆきさんによるビギナー3人のための座学の勉強会。さらに7月にはもてぎロードレース選手権に参戦などなど、情勢を見ながら、できる限りの準備をして当日を迎えました。

もて耐当日は懸念された雨が落ちることなく、雲間に青空がのぞいていました。77台中66番グリッドからのスタート。今年のもて耐は新型コロナウイルス感染症の感染防止対策により、予選と決勝は1日で行われ、7時間から3時間耐久に変更されました。その3時間をベテランライダーのゆきさん、坪井監督を中心にビギナートリオでつなぐ作戦です。

緊張のせいか顔がこわばっている筆者、伊藤(右)
もて耐スタート。スタート方法はル・マン式

いざ自分の走行時間を迎えてコースインすると、1コーナーがぐっと迫ってきます。落ち着いて右側ラインをキープ、キープ……4コーナーの立ち上がりで後方を確認しつつ、加速。よし、できている。大丈夫だ。

しかし、しばらく走っていると、4コーナーの立ち上がりで蛍光イエローのサインボードが目に入りました。その瞬間、頭をよぎったのが走行前に言われたこと。「もしかしたらライドスルーペナルティが科されるかもしれないから」。どうやら前のスティントで、セーフティカー解除からの再スタート時の走行に、ペナルティが科されたようなのです。

実はこのとき、私は別のことでも混乱していました。ブレーキマスターシリンダーに張られる予定だった、ピットインのタイミングを書いたテープが、ないのです。サインボードの確認が難しいだろうビギナーに配慮された作戦でしたが、それがない。もちろん自分の担当走行時間は覚えていますから、メーターの時刻を確認して計算すればわかります。ただしそれは、普通の状況でのハナシ。こちとら、もて耐初参戦ライダー。1+1すらできる状況じゃありません。

混乱している最中のサインボード。しかしサインボードに『RIDE THROUGH』と、チームのゼッケンナンバー『36』が表示されているのを確認すると、一気に頭が冷えていきました。そこでピットインを即決。サインボードを出されてから既定の周回数でペナルティを消化しなければ、失格になってしまうはず……。「自分のせいでチームを失格にするわけにはいかない……!」この日一番の嫌な汗をかいたのは、間違いなくこのときでした。

なんとか無事に1回目の走行を走り切ることができましたが、あとから聞いたところでは何度かサインボードを見逃していたようです。レース中の広い視野は、本当に大事だと痛感し、反省しきりでした。

私は約20分の走行を2回担当。それでもへとへとになるほど

レース終盤には、もう一度20分間の走行を担当。今度はハプニングもなく、速いライダーの背中を見て、動きを真似たりしながら走ります。ああ、面白い。バイクってなんて面白いんだろう……気がつけば、レース中に自己ベストを更新していました。誇れるほどのタイムではありません。けれど、これが自分の頑張った分だよ、とタイムが言ってくれたようで、ひたひたと静かな充足感がありました。

間もなくチェッカーという時刻になると、チームメイト、メカニックさん、レースを支えてくれたたくさんの人たちと一緒に、サインエリアに向かいます。最後の走行を担当した、並河さんを待つために。やがて『ゼッケン36』のBMW G310Rが目の前を横切ります。ああ、チェッカーを受けた、これで今年のもて耐は終わったんだ──。

ゆきさんと坪井監督が笑顔で涙をこぼしていました。加山さんが少しうるんだ目元のまま、そんな二人を優しく見つめています。わたしもつい、目から汗がポロリ。そこにあったのは、最後まで走り切ることができた安堵感と、達成感でした。

チェッカーライダーをみんなで待つ。総合67位という結果だった

確かに、もて耐に出るってそんな簡単なものじゃありません。準備も必要だし、スポーツですから、それなりに体を鍛えたり練習だってしなきゃいけない。実際のところ、お金だって必要です。けれど、けれど参戦してよかったと思えるものが、もて耐のチェッカーには詰まっています。それだけは間違いなく、断言できるんです。なにしろ今年、私はそれをからだじゅうで味わったんですから。

今回もて耐で着用したのは、クシタニの女性向けレーシングスーツINNOVATION SUITで、グローブはGPRグローブ。走行中、体に違和感や痛みを感じることもなく、革が柔らかいから脱着もするするっと楽ちん。とっても心地よくレースに集中して走ることができました。

もて耐を無事に完走! 3時間でもお腹いっぱいの経験だった

写真:後藤純

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