「え、英語で話すんですか? いつもは……そうですね、ヘタクソな英語で会話してますね。日本とタイのヘタクソな英語同士です(笑)」
小椋が、そう笑ってスタートした、(対談時には)23歳の小椋藍と、26歳のサムキアット・チャントラの対談。仲がいい、このふたりの対談が公開されるのは、かなり珍しいかもしれない。
ふたりのチームアジア入りは2020年と同じ年。チャントラはMoto2クラスに、小椋はMoto3クラスに参戦をスタートするようになる。
「チャントラとは2014年に初めて会ったのかな。それからチームアジアで5年、CEV(=スペイン選手権)も入れたら7年、その前にアジアタレントカップも入れると9年ですね。長い!(笑)」と小椋。
ふたりは、アジアタレントカップのデビューも2015年と、まさに同期。忘れもしない、この年のアジアタレントカップでは、チャントラはデビューウィンを飾ったのだった。このレースで、小椋は10位、この年のチャンピオンは佐々木歩夢だった。

――チャントラ選手の印象は?
「最初にあったのは自分が14歳、チャントラが16歳かな。簡単に言うと、パドックでは一番ちかい友だちみたいな感じじゃないですかね。人柄は見たまんまです(笑)。いつも明るくてハッピーで、いい人を絵にかいたような、まわりのムードを作ってくれるようなひと。去年(23年)まで同じボックスにいて、自分が速い時、彼の方が速い時があって、レースではチームメイトが速いって、いいことですから、その意味ではよかったです。チャントラがチームメイトでいい刺激になりました」(小椋)
――では小椋選手の印象は?
「アイとは2014年に初めて会って、その時から一緒にレースをするようになりました。その時からアイは速くて、タレントカップやCEVで競い合って。そのあたりから少しずつ仲良くなって、ホンダチームアジアでチームメイトになった時にもっと仲良くなった。アイは本当に速くて、アイからライディングを学びましたね。いいひと、いいチームメイト。25年に一緒にMotoGPクラスに上がるのはすごくうれしいこと。本当はMotoGPでも同じチームだったらよかったのにな」(チャントラ)
久しぶりに別のチームからのエントリーとなった2024年、チャンピオンを獲得した小椋に対し、チャントラはランキング12位。表彰台に登れず、TOP10入りしたのも20戦中11回だった。

「走行後とか、チームアジアのピットに行くことが多いから、逐一どういう状態なのか、情報交換はしていましたね。今年はタイヤが変わって、チャントラはそこで苦労しているようでした。アドバイスとかは特になかったです。ふたりともある程度までいっているライダーだし、症状を克服できるかどうかの問題だから」(小椋)
「アイが今年、チャンピオンになって本当に嬉しい。24年はアイにとって素晴らしいシーズンでしたよね。特に僕の母国であるタイ・ブリラムでタイトルを決めて、とても誇らしい気持ちになりました。自分のことのように嬉しかった」(チャントラ)
そして2025年には、アジアタレントカップ出身のこのふたりが、揃ってMotoGPクラスに参戦する。アジアタレントカップ出身のライダーがMotoGPライダーになるのは初めてのことで、小椋は全日本ロードレースを経ずにMotoGPにたどり着いた初めてのライダーであり、チャントラはタイ人初のMotoGPライダー。
インタビュー時には、24年の最終戦明けのシーズンオフテストだけが済んだ状態。2人ともまずは『楽しんで経験を積むように』とチームからアドバイスされ、精力的に周回。仲良く、一度ずつ転倒も喫している。ふたりのMotoGPマシンの感想は?
「テストが終わった後、話しました。な、スゴイネー(と日本語で)、だよね。基本は同じような感想だったんだけど『どうだった?』って聞いたら、速いけど面白いよな、って言っていましたね。うん、パワーがすごいし、加速が強く、楽しかったですね。Moto2との違いはそれほど感じなかったけど、はじめの数周はとにかく速くて驚きました!」(チャントラ)
「チャントラと『やべーな』って話しましたよ。あと、まわりのライダーも凄くて、みんなきれいに乗ってるなぁ、って。Moto2とかMoto3だと、このライダーはこのあたりの位置を走るな、ここには負けないな、とかわかるんですけど、MotoGPクラスでは『この人になら勝てる』なんて一切ない(笑)。マシンについても、もうやべーな、って。時速350kmですもん、すげぇよな、ってチャントラと話しましたよね」(小椋)

2025年のMotoGPルーキーは、フェルミン・アルデゲルと小椋、チャントラの3人。決して生易しい世界ではないのは百も承知だが、期待してしまうのもファン心理。本人たちはどう考えているのだろう。
「2025年はポイントが獲れたらいいな、と思っています。とにかく経験を積んで、MotoGPマシンをきちんとコントロールすること。早くタイとオーストリアのコースをMotoGPマシンで走ってみたい。タイはホームグランプリだし、オーストリアは僕のライディングスタイルに合っているんです」(チャントラ)
「25年は特に目標はないですね。まずはバイクに慣れなきゃな、って、それが第一。スタートから20位、19位、18位、って少しずつ上向いて行けば。自分ができることを毎回やって行って、それがポイントだったうれしいし、トップ10だったらもっとうれしいですね。GPで楽しみなのは……まだ経験ないからわかんないです。自分はもてぎでいちばん速く走れたらうれしいですね」(小椋)
ここで、ふたりでフリートーク。初めてのMotoGPマシンに乗ったこと、乗っての感想と、その時どう思ったか、そしてMotoGPマシンに乗るうえでのトレーニングの必要性まで。日本とタイという国境を超えて、3歳違いの仲のいいふたり。2人が話しているのを聞いていると、お互いをリスペクトし合っているのがよくわかる。その模様は必見!
下のクシタニ動画 www.youtube.com/watch?v=4xywKmRGqhw もご覧ください。

けれど、このふたりが2025年には、アプリリアとホンダに分かれて戦うのだ。
「腕とか肩は平気だったけど、背中がキツかったかな。そこのトレーニングはしなきゃ」とチャントラが言えば
「オレはウェイトはしないかな。走ったり、自転車に乗ったりかな」と小椋。
願わくば近い将来、このふたりによるトップ争いが見てみたい。そう、2023年の日本グランプリのように。
どうなるか、楽しみだね――そう言った小椋の言葉に、大きくうなづいたチャントラの笑顔が印象的だった。
MotoGPテストは1/31~2/2までマレーシア・セパンでシェイクダウンとルーキー&テストライダーオンリーの走行があり、2/5~2/7にセパンで全選手が走るオフィシャルテスト、2/12~2/13にタイ・ブリラムでテストがあって、2/28日にはいよいよ開幕戦が始まる!