120%嬉しい、完璧なレースでした ~小椋 藍 デビュー60戦目のグランプリ初優勝

スタートからフィニッシュまで、一瞬も気が抜けない、緊張感が張り詰めたレースだった。

Ai Ogura, Moto2 race, Spanish MotoGP, 1 May 2022

2022年5月1日。世界選手権ロードレースMoto2クラス、第6戦スペイングランプリ、イデミツホンダ・チームアジアの小椋 藍。Moto2クラス初優勝は、デビュー4年目、Moto2クラス2年目での、ワールドグランプリ初優勝だった。

レースはポールポジションから飛び出したまま、後方にアーロン・カネット、トニ・アルボニーノを従えてトップを走行。カネットはジリジリと小椋に迫り、背後をピタリと追走。しかし、決定的に差を詰めることはできず、ラスト5周についにその差が1秒以上に拡大。23周のレースで、ラップタイムを1分41~42秒台でピタリと揃えた小椋は、最終的にカネットに2秒5の差をつけて真っ先にチェッカーフラッグを受けてみせた。

Ai Ogura, Moto2 race, Spanish MotoGP, 1 May 2022

2019年にグランプリデビューして60戦目での待望の初優勝、しかもポールtoウィン。思い起こせば、小椋が世界の舞台で頭角をあらわしたのはMoto3を走っていた2020年――あれだけトップに迫っても、なかなか優勝に手が届かなかったというのに、昇格したMoto2クラスでグランプリ初優勝を成し遂げてみせたのだ。

Moto2クラスのデビューシーズンは、2位表彰台を1回獲得してのランキング8位。そして、そのシーズンオフ、小椋はいつものようにトレーニングを繰り返した。小椋のトレーニングは、とにかくバイクに乗りまくることだ。

「オフのトレーニングは、ミニバイクでもモタードでもモトクロッサーでも、とにかく乗りまくります。なんか、バイクに乗っていないと不安なんですよね。ジムで筋トレやるのもいいけれど、僕はバイクに乗るのがいちばんのトレーニングだと思ってるし、ヨーロッパのライダーがまさにそうじゃないですか」

何度かオフのトレーニングに同行させてもらったが、練習用のCBR250RとCRF250モタードを軽

々と振り回して、小椋は本当に一日じゅう走り続けていた。同じようにトレーニングで走り込む仲間たちと、マシンを豪快にスライドさせて、時には低速で転び、タイヤもツナギのスライダーはぼろぼろになるまで走った小椋は、本当に楽しそうだった。

 

「Moto3からMoto2にマシンが変わって、どうしてもマシンが重くなるから、マシンをコントロールする感覚を反復練習する感じです。ただ一年目シーズンの真ん中くらいかな、だんだん自分のバイクだって思えるようになってきましたね」

 

そして、結果が求められ始める2年目のシーズン。開幕戦カタールGPで6位入賞を果たすと、アルゼンチンGP→アメリカズGPで3位→2位と連続表彰台を獲得。ヨーロッパラウンドの初戦ポルトガルGPでは、ハーフウェット路面に足をすくわれて多重クラッシュ中の1台に。規定時刻までに再スタートできなかったことから、決勝レースではリタイヤ扱いとなってしまっていた。

「Moto2を一年走って分かったんですがって、上位を走るライダーの顔ぶれって固定されてきましたよね。一年目、僕はトップ集団を走る4~5人のすぐ後ろにいた感じ。でも、差は小さなところだと思ったんです。2年目は、いつも表彰台争いをするようなポジションで走って、ランキング4位には入らないと。21年が8位、そこから上のライダーが4人、MotoGPに昇格していなくなるから、8-4=ランキング4位です。いやキリよく3位狙いで」

開幕を控えてヨーロッパへ戻る直前、そう語っていたとおり、上々のスタートを切っていた小椋。そこからの、6戦目の初優勝だった。

ヨーロッパラウンドに戻ったヘレスサーキットでの初戦は、実は小椋にはゲンのいいコースだ。2017年にMoto3ジュニア世界選手権(=スペイン選手権Moto3クラス)にデビュー、その初優勝もヘレスだったし、さらに世界選手権Moto3へのワイルドカードデビューも、ここヘレス。

実はオフのトレーニングの間に話を聞いた時も、ここヘレスの話は出ていた。

「Moto2を一年走って、スロットル開け開けで走るコースでは、まだちょっとイケてないですね。ガツンとマシンを止めてクルッと回るコースだと差が出ないんですよね。ヘレスみたいな」

その言葉通り、ヘレスでの小椋は、ポールポジションから飛び出して、一度も後ろを振り返ることなく、先頭を走り続けた。ヘレスの『ガツンとマシンを止めてクルッと回るコース』を23周、大きなミスなく。その姿はCBR250Rを、CRF250モタードを滑らせに滑らせて走り回った、シーズンオフのトレーニングを思わせた。

残り5周、4周、3周、2周、そしてファイナルラップ。タイヤ消耗してないかな、後からカネット来るよな……日本じゅうで小椋の走りを見つめていたファンたちの不安と心配を裏切るように、小椋はペースを落とすことなく、逆に2番手以降を引き離し始めた。そして歓喜の瞬間。

Ai Ogura, Moto2 race, Spanish MotoGP, 1 May 2022

普段はとても21歳とは思えないほど冷静沈着で、どこか自分の走りさえ俯瞰で見ているような落ち着きのある小椋が、クールダウンラップで、パルクフェルメで感情を爆発させていた。表彰台では、もう冷静に戻っていたけれど――。

何度もあと一歩、と思わせたMoto3では届かなかった優勝を、Moto2クラスで達成。実は、現MotoGPチャンピオンであるファビオ・クアルタラロも、グランプリデビューから2年間戦ったMoto3クラスで優勝できず、初優勝はデビュー4年目のMoto2クラス、グランプリデビュー56戦目のことだった。クアルタラロは、その翌年にMotoGPクラスに昇格、3年目にワールドチャンピオンに輝いている。

もし小椋がこのままの走りを続けてチャンピオンに……。いやいや、まだ気が早い。

小椋の2022年シーズン、一戦たりとも見逃すまい。

Ai Ogura, Moto2 race, Spanish MotoGP, 1 May 2022
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