野左根航汰はずっと高い壁と戦ってきた。

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野左根航汰はずっと高い壁と戦ってきた。

デビューは2009年、全日本選手権GP125クラスにスポット参戦した時――ではなく、その3年前、2006年。埼玉県・秋ヶ瀬サーキットで開催された「チームノリックジュニア」結成式に、後に全日本ロードレース選手権に上がることとなるふたりのライダーと、ノリックこと故・阿部典史さんの隣で微笑んでいたのが小学6年生の野左根少年だった。
それから野左根は、ノリックとノリックの父である阿部光雄さんのもとでトレーニングと実戦に励むことになる。しかし、07年にノリックが事故により他界。この頃から、ノリックの「若いライダーを育てる側に回りたい」という夢は、光雄さんの中で「航汰を世界王者にする」という具体的な目標に昇華していった。この頃のことを、後に野左根はこう語っている。小中学生のライダーに立ちはだかった、ひとつめの壁である。
「ノリックジュニアの時には、ノリックさんとお父さんの元でレースをするってことで、すごく恵まれていたけど、注目もされてしまって、子どもながらにプレッシャーらしきものはありました。小学校高学年から中学生にかけてですからね」
2010年からは全日本選手権J-GP3クラスにフル参戦。翌11年には600ccマシンによるJ-GP2クラスに参戦を開始し、13年にはシリーズチャンピオンを獲得。世界グランプリ、Moto2クラスの終盤3戦にスポット参戦し、翌年からのMoto2フル参戦も発表された。
しかし野左根は、親類の不幸がありGP参戦を中止。レース活動を断念する可能性さえあったが、野左根の才能をこのまま終わらせるわけにはいかない、と阿部光雄さんをはじめとした周囲が体制作りに動き、全日本JSB1000クラスに参戦をスタートする。野左根はここでも、まわりのサポートを得て高い壁を越えてみせたのだ。

先輩という”壁”を超える

JSB1000に参戦を開始したのは14年。15年にヤマハのサテライトチームへ、17年にはワークスチームへと順調にキャリアを重ねた。この頃に、またも野左根に高い壁が立ちはだかる。いつもひと足先を走っていた、チームメイトの先輩ライダー、中須賀克行だ。
野左根はこの頃、絶対王者の名をほしいままにしていた先輩に立ち向かい、17年に2勝を挙げたものの、それはいずれも先輩ライダーが転倒した時。18年は未勝利、19年の優勝は、雨というトリッキーなコンディション。押しも押されもせぬ日本のトップライダーになった野左根だったが、野左根はまだまだチームメイトの弟分でしかなかった。
しかし2020年、風向きは変わった。コロナ禍の影響で開幕が大幅に遅れた全日本ロードレースだったが、2ヒート制で行なわれた開幕戦・菅生大会、ハーフウェットの難しいコンディションで、野左根がダブルウィンで2020年開幕を飾ったのだ。

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続くオートポリス大会では、ヒート1でトップ争いの最中、後方に多重クラッシュが起こり、レースは赤旗中断から終了。この時に前にいた野左根が優勝、との裁定が下された。ヒート2でも、このふたりがトップ争いを繰り広げる中、最終ラップ、あとコーナー2つでフィニッシュ、というところで接触転倒。レース後、野左根がすぐに先輩ライダーのもとに謝罪に出向いたように、抑えきれない野左根の気持ちがアクシデントを生んだようだった。
次戦もてぎ大会では、野左根が両ヒートとも先輩ライダーを抑えきって開幕6連勝。チャンピオンがかかった最終戦ヒート1では、大事に行きすぎたか、野左根はシーズンで初めて優勝を逃してしまうが、最終レースでは野左根が鈴鹿でのJSB1000クラス初優勝を達成。これで野左根は8戦7勝、堂々たる日本最高峰クラスのチャンピオンに輝いた。

世界デビュー、”新たな壁”へ

最終戦を前に、2021年からのワールドスーパーバイク(=WSBK)参戦決定が明らかになった野左根。全日本チャンピオンという文句なしの実績をひっさげての参戦だが、野左根にはもうひとつの思いもあった。それが、長くチームメイトだった先輩超え――。
「ワークスチーム入りした頃からWSBKに行きたいとは思っていましたが、ヤマハにアピールしたのは2020年シーズンインの頃。もちろん、全日本チャンピオンを獲ってから、とは言ったんですが、それには偉大なチームメイトを倒さなきゃいけない。その目標が、少しだけ達成できたかな、と思います。偉大な先輩を倒さなきゃいけない敵だと認識して4年、やっと壁を乗り越えられたかな、と思ってます」

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2020年、野左根は一度はあきらめかけた世界デビューへの切符を再び手にした。いくつもの壁を乗り越えてきた日本チャンピオンは、すぐに立ちはだかってくるはずの新しい壁さえ乗り越えてくれるはずだ。

野佐根航汰(のざね こうた)
1995年10月29日生まれ 千葉県出身
2006年~2014年 故阿部典史氏が立ち上げた「Team Norick]に所属。2010年より全日本選手権ロードレースにフル参戦。2013年にJ-GP2クラスのタイトルを獲得。14年よりJSB1000クラスに参戦。2017年よりヤマハ ファクトリー レーシング チームに移籍。2020年、JSB1000クラスのタイトルを獲得。2021年はワールドスーパーバイク世界選手権に参戦する

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