KUSHITANI × 46WORKS CUSTOM PROJECT

山梨県八ヶ岳の麓を拠点に、世界中のバイクファンを魅了するカスタムバイクを製作するカスタムバイクファクトリー「46Works(ヨンロク・ワークス)」とクシタニとのコラボレーションバイクが完成した。

2023年夏からスタートしたこのプロジェクトは、そのコンセプトや徐々に形づくられていくバイクの様子をクシタニの公式Youtubeチャンネル/KUSHITANI PERFORMANCE CHANNELで紹介してきた。そして2024年5月に筑波サーサーキット コース2000で開催したクシタニのサーキット走行会/KUSHITANI RIDING MEETINGで完成車をお披露目。シェイクダウンを行った。

ベースモデルとなったBMW R80は、エンジンやフレームといった車体の基本骨格はスタンダードのままでありながら、ハンドメイドの外装や、車体のキャラクターに合わせて厳選した前後サスペンションやホイール、ブレーキ類をさらに調整しセットアップ。エンジンはフルオーバーホールにくわえて吸排気系パーツや点火系を変更してパワーアップ。フレームは、必要のないステー類を取り払ってシェイプアップし、一人乗り仕様にするためにリアフレームのみ新たに製作されている。

その完成車が佇む姿は、紛れもなくBMWでありながら、BMWのイメージを上書きするような軽快さを纏っている。

「クシタニと一緒にカスタムバイクを造るということはどういうことか。コンセプトというか、その理由を考えました。クシタニの既存のユーザーは、バイク経験豊かな大人のライダーが多い。しかも正当派ライダーが多いイメージでした。そこで今回は、その既存ユーザーにくわえて、クシタニユーザー以外のライダーのココロにも刺さるような、そんなカスタムバイクを造りたいなって考えたんです。そこで大人のカフェレーサー、または大人のロードスターを、カスタムバイクのテーマにしました」

 

そう語るのは、46Worksのデザイナーでありバイクビルダーである中嶋志朗(なかじま・しろう)さんだ。すでに発売しているクシタニと46Worksのコラボレーション・ウエアたちは、これまで数え切れないほどのバイクに乗り、カスタムバイクを造り続けてきた中嶋さんの経験を反映してウエアの各ディテールを決定。Tシャツなどは、中嶋さん自身がグラフィックを製作している。

中嶋さんが考える“大人のカフェレーサー&ロードスター”とは、何を意味しているのだろうか。

「そこそこ速くて、とにかく走って楽しいバイクの本質を持っていること。そして所有感があることです。たっぷり走りを楽しんだツーリング先で、何気なく停めた自分のバイクを眺めたとき、たとえ走りに行けなくてもカレージや自宅前に佇むバイクを眺めたとき、あらゆる場面でバイクを眺めても満足できるそのクオリティとデザイン。そういうことを考えて製作しました。

カフェレーサーは走りに特化していて、それはそれで格好いいのですが、アップハンドルのロードスターの方が、街乗りからスポーツ走行まで、幅広いシチュエーションでストレスなく楽しめると考えました。シェイクダウンは筑波サーキット コース2000でしたが、楽しく走ることができました。シェイクダウンで、こんな気持ちよく走れたら大成功だと思います。

これまで同じベース車両で何台もカスタムバイクを製作してきたので、自分がイメージする走りのパフォーマンスを実現するなら、どのポイントにどんなパーツをチョイスして、そのセッティングをどうするか、アタマの中でレシピを組み立てられるし、組み上げた後の走行フィーリングもイメージと大きくズレることはありません。でも今回は、予想した以上に気持ちイイ走りが出来ました」

中嶋さんはいつも、カスタムバイク製作の前段階として、完成車をイメージした、車体を真横から見たデザイン画を描く。このR80プロジェクトのデザイン画は、Youtube動画のロゴやコラボTシャツのグラフィックにも使用されている。そしてカスタムバイクをデザインする際に重要なポイントがあるという。

「もっとも重要なのは、ライダーが座る位置です。車体を真横から見たときの前後の位置にくわえ、高さも重要です。ライダーが座る位置によって、そのバイクのキャラクターが決まるからです。それが決まってから、その周りをデザインしていきます。

今回はアップハンドルを採用したので、それにあわせてステップ位置を決めました。セパレートハンドルに合わせるバックステップに比べると、今回のステップ位置はかなり前にあります。アップハンドルと言っても、グリップ位置はそれほど高くありません。コンチハンドルくらい、かな。これによって程良い前傾姿勢が出来て、リラックスできるポジションでありながらスポーツも出来る。ハンドル取り切れ角も大きく取ることができるので、街乗りもストレス無く走ることができます」

ベースとなったBMW R80は、片持ちスイングアームとそれを支える車体右側の一本のリアサスペンションによって“モノレバー”と呼ばれている。そのモノレバーは軽快なハンドリングが特徴であることから、中嶋さんはそのR80の素性の良さを活かすために、ディメンションと呼ばれる前後サスペンションやホイールを装着するための細かな数値はスタンダードをベースにアレンジを加えたという。

「より軽快なハンドリングを造り上げるために、動きの良いフロントフォークに交換。フォーク内にセットするスプリングや減衰力を車体に合わせて調整して、同時にブレーキ周りも強化しました。またフロントフォークを少しだけ短くして、やや前下がりの車体姿勢としました。その車体姿勢に合わせてフォークオフセットを減らしてトレールも調整しています。リアサスペンションは高性能なショックユニットに交換しましたが、長さはスタンダードとほぼ同じ。しかしバネレートを下げて、イニシャルも減らしました。

カスタムによって車体重量が大幅に軽くなったことにくわえ、二人乗りや荷物の積載も考慮したスタンダードから、一人乗り専用という完成車のキャラクターにあわせて各足周りを設計およびセッティングしました。一般的な市販車に比べると割り切った設定ですが、だからこそ市販車とは違う走りを楽しむことができるわけです。これができるのも、カスタムバイクの良いところだと思います」

燃料タンクやシートカウル、それに前後フェンダーによって構成される車体デザインは、すべて中嶋さんによる手作り。チタンパイプを火で炙り、炙った部分にチカラをくわえて成形する手曲げエキゾーストパイプやサイレンサーといった、車体のパフォーマンスを左右する機能パーツをもデザインすることで、46Worksのカスタムバイクは成立している。

「燃料タンクやシートカウル、それにフロントフェンダーは、アルミ板を叩いて成型しています。完成したそれらの外装パーツは一体構造に見えますが、じつは叩いて絶妙な曲面を与えた何枚ものアルミ板を溶接で繋ぎ合わせて、その溶接面を削ったり溶接の熱で歪んでしまった曲面をさらに均したりして完成となります。表面にはペイントも施しますのでその苦労はほとんど分からないのですが…シートカウル内には小物やETCを収めることができる収納スペースを必ず確保します。そのスペースにアクセスすると、その溶接痕や叩き出したときのハンマーの打痕を外装パーツの裏側から見ることができますよ。

燃料タンクを写真で見ると、直線的なラインが強調されているかもしれません。もちろん、その直線的なラインは、シャープさを表現するために意図してデザインしています。ただ、タンクを構成する面に複雑な抑揚をつけることで、表情豊かな燃料タンクを造りました。だから実際の車両を見ると、写真の印象と違って見えるはずです」

46works
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驚くのは、車体に跨がったときのコンパクトさ。車体を起こしたときの軽さ、タンク周りの細さ、ライディングポジションのコンパクトさによって400ccクラスの車両に跨がっているように感じるのだ。

しかし外装類を造るとき、小さくというより、細くしたかったと中嶋さんは言う。BMWはフレーム形状的に外装類を細くするのが難しい。ステアアリングヘッド周りやシートレールの幅が広く、スタンダードの外装はその幅広いフレームを避けるようにデザインされているため、スタンダードの外装類はポッテリとした印象となる。そこで中嶋さんは燃料タンクやシートカウルをデザインする際、その幅広いフレームをかわしつつ、できるだけ細く作ろうと考えた。

「製作過程をレポートしたクシタニのYoutubeチャンネルの動画の中で、作り直すかも、と言っていましたが、燃料タンクは実際に作り直しました。最初の燃料タンクは、張り出したステアリングヘッド周りのフレームを見せるような形状でした。しかし出来上がったタンクを車体に載せてみると、イメージしたバランスと違っていたんです。そこでタンク前方の形状を再構築して、フレームを覆い隠すデザインとしました。またタンクの取付角度や位置を何度もトライし、ミリ単位で変更しました。たとえ同じ形状の燃料タンクでも、角度や位置が違うだけで、車体のバランスが大きく変わりますから」

このR80をベースにしたカスタムプロジェクトでは、なにか大きなブレイクスルーがあったとか、何か新しいことにチャレンジしたと言うことはなかった、と中嶋さんは言う。しかし車両製作や整備を続けながら、日々いくつもの発見があり、細かなポイントを少しずつアップデートしているという。もちろんそれらの発見は、パフォーマンスを向上するためだけでなく、長く乗り続けたときにパフォーマンスもスタイルも、最高の状態を維持するための工夫も含まれる。したがって時間が経って車両に触れる時間が増えれば増えるほど、中嶋さんの車体製作における深度が深まるのだ。そう考えると、最新作であるこのR80カスタムは、現時点で46Worksの最高作というわけだ。

「でもカスタムバイクは、お客さんの手に渡ってから、次のステージに入ります。オーナーが乗り込んで、乗り込めば乗り込むほど、あの部分をあんな風にしたい、こんな風にしたいという要望が出てきます。それに調整やメンテナンスを重ねることでライダーとバイクの距離が少しずつ近くなっていくんです。そうやってバイクとの関係を造っていけるのも、カスタムバイクの魅力だと思います」

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