天然の革を見極める力【バイク専用レザーをつくるクシタニについて改めて思うこと vol.3】

実際に革を裁断するシーンを見ると、驚くほどスピーディで大胆。様々な形や大きさの物を、リズミカルかつ正確に切り取っていく。集中力、技術力、判断力、そこには職人の色 々な「力」が宿る。

しかし、ミスは許されない。レザースーツのパーツは 200 個以上。 そのすべてが 1mmズレれば、200mmのズレになるからだ。線の上を切るのか、内側を切るのか、外側を切るのかそれだけで簡単に誤差が生まれる。

クシタニの「プロトコアレザー」と「エグザリートレザー」は塗装も極力薄めで、天然の牛のシボがそのまま見える。 人に例えるとスッピンに近い状態だ。スッピンが綺麗だと、化粧は薄くて済むというわけ。しかし、牛の革は天然素材。当然、同じものはないのだが、製品の品質は揃えないといけない。しかも高いレベルでだ。

見た目の品質を揃えるだけなら、熱を加えて伸ばした薄くて硬い均一な肌面の型押しの革を使えば苦労はしない。でも、これはクシタニが求める革ではない。

型押しの革は伸び率も少ないため、布と同じような感覚で裁断も縫製もできるが、クシタニの革はそうはいかない。最適な場所に最適な部位を落とし込んでいく。
裁断を見ていると、サーキットを走るライダーの動きに被る。直線でスロットルを開け、カーブの手前でブレーキ をかけ、クリッピングポイントに向けて旋回。革の裁断も直線部分は一気に進み、小さなアールはゆっくりとカット。革の上を走らせるカッターの動きのメリハリやリズムがサーキットを走るライダーを思わせるのである。

ちなみに型押しの革なら牛一頭の革で、レーシングスーツを1着つくれる。しかし、クシタニのクオリティでは1.5 頭分が必要になる。

型押しの革なら小さな傷も隠せる。しかし、転倒したらその傷から裂けるかもしれない。

型押しの革は薄くて硬いから、コンピュータ制御のカッティングの機械が使える。しかし、クシタニの革は天然素材だから、裁断するときに職人の目利きが必要になる。


当然、効率は悪い。コストもかかる。でも安全と運動性のためにこだわるのだ。

天然の革は、すべて異なるから部位を決める際に職人が手で触り、目で確かめ、適切な場所に、適切なパーツを当てはめていく。

例えばレザースーツは腕や胸、太ももなどは横方向に伸びやすい。牛の革は、部位によって伸びる方向が異なり、伸び率も違う。キメに関しても首の方は荒く、お尻の方が細かい。

クシタニの職人は、こうした革の特性とライダーの動きを瞬時にリンクさせる。この職人技が安全性だけでなく、運動性や品質に直結するのは容易に想像できることだ。

クシタニ レザー
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