MotoGPもいよいよシーズン中盤、このドイツGPを終えると約1カ月のサマーブレイクを迎える。前戦オランダGPに優勝しての2週連続のレースとなった小椋藍だが、実は舞台となるザクセンリンクは相性が悪いサーキットなのだ。
Moto2クラスに昇格した2021年には予選8番手/決勝では最終ラップで転倒リタイヤ、22年は予選14番手/決勝8位、そして昨年23年は予選20番手/決勝14位。これが小椋藍のドイツ・ザクセンリンクでの戦績だ。ちなみにMoto3時代にはドイツGPには2回参戦、最高位は19年の予選16番手/決勝7位だ。
「ザクセンリンクは、左回りコーナーばっかりの、他にはなかなかないレイアウト。あんまりいい印象はないし、いつも苦労していて、今年も難しいなぁ、って感じ。でも好きなコースだし、今年はシャーシもタイヤも変わったし、がんばります。スピードとタイヤのセーブのいいバランスを決勝レースまでにみつけていかないと」(小椋)

その言葉通り、小椋はフリー走行で10番手、プラクティス1と2で8番手、そしてQ2ストレート進出を果たした公式予選では3列目7番手。小椋にとっては、良くもないし、悪くもない位置取り。区間タイムで言えば、左→左と回りこむ中速コーナーのセクター2が15番手と伸びず、トップスピードも11番手と伸びていない。これは、予選グリッドを上げようとアタックしたというより、25周という長丁場のレース中、最後に勝負ができるよう、タイヤを持たせる車体のセッティングを進めた結果だろう。
「予選ではうまくいかないセクターがあって、それが予選タイムに響いた感じでした」という小椋だが、それがおそらくセクター2。ただ、ここはマシンをバンクさせてアクセルを開けていく、タイヤに厳しいセクター。この区間こそ「スピードとタイヤのセーブのいいバランス」を重視したい区間だったのだろう。

決勝レースでは、3列目スタートで、序盤はずっと予選グリッド順あたりの7~8番手を走行。セレスティーノ・ビエッティ、トニ・アルボリーノ、フェルミン・アルデゲル、ジェイク・ディクソンらがトップ集団を形成するなか、アロンソ・ロペスやジョー・ロバーツらと、トップグループのすぐ後ろでポジション争い。ただ、小椋にとってプラスに働いたのは、トップ集団がポジションを入れ替えながらのバトルを演じたことで、全体のラップタイムが伸びず、序盤にトップグループから離されなかったことだ。
「レース前半にもうすこしポジション上げたかったけどそれができずに、中盤は苦しかったですね。ただ、それから周りのライダーよりリアタイヤが残っていたので…」

小椋の反撃が始まったのは残り10周を切ってから。まずディオゴ・モレイラを抜いて6番手に上がると、翌周にはアルボリーノもかわして5番手へ。残り5周にはセナ・アジウスをパスして4番手となるも、ディクソン、モレイラ、ビエッティも食い下がり、モレイラとビエッティと小椋の3台がバチバチの3番手争いで最終ラップへ。一時はモレイラとビエッティの2台に先行されて5番手にはなるものの、まずモレイラをかわして4番手に浮上すると、そのままザクセンリンク名物のダウンヒルストレートでスピードを乗せて、最終コーナーひとつ前でビエッティのインを刺し、最終コーナーでアウトから並びかけるビエッティを抑え切って3位でフィニッシュした。
この最終ラップでまずモレイラを仕留めたのが、予選まで苦しんでいたセクター2の終わりで、そのままダウンヒルストレートへ続くスピードを乗せたのもこのセクター。やはり小椋は、初日から少しずつセクター2に対応し、決勝レースの最終ラップで、完全攻略してみせたのだ。


最終コーナーでのビエッティとの攻防は、アウトから並びかけたビエッティが、最終コーナーを立ち上がっての加速競争でリアタイヤをずるずると滑らせていたのに対し、スムーズに立ち上がった小椋が先着したもの。しかも小椋は、最終コーナーできちんとアウト側にビエッティのスペースを残してクリーンなバトルで決着をつけたのだ。リアタイヤのエッジ部を使ったビエッティ、エッジを残した小椋との戦いだった、というのはうがちすぎる見方だろうか。
ちなみに小椋は、レースタイムを23年から約28秒短縮。優勝したアルデゲルが、昨年のペドロ・アコスタの優勝レースタイムを8秒だけ短縮していることを考えると、もう小椋のザクセンリンクへの苦手意識は消えてしまったことだろう。
「ここザクセンリンクは、シーズン前半の中でいちばん苦手なコース。ここで3位になれたのは大きいですね」

これで小椋は、今シーズンはじめて表彰台に上がったフランスGPから、この5戦で2回の優勝を含む4回の表彰台登壇を果たし、シリーズランキングでは、ランキングトップのチームメイト、セルジオ・ガルシアまで7ポイントの2位をキープ。これでMotoGPは、例年になく長いサマーブレイクを迎え、次戦イギリスGPは8月4日に決勝レースが行なわれる。小椋はサマーブレイクの間、またいつものように国内のサーキットを走りまくるトレーニングの日々を送るのだろう。
写真提供/MTヘルメッツMSI Honda