自分がいいと思うものをイメージする。そしてつくる。それだけ|46works 中嶋志朗インタビュー

 いま、自宅とともにバイクのカスタム作業の拠点としているのがここ八ヶ岳にある「46works」です。2014年からなのでもう9年が経ちますが、田舎のゆっくりした時間の中でバイクを1台1台作っていきたいと思ったことが移住のきっかけでした。それまで携わってきた「Ritmo Sereno」の、バイク製作以外のさまざまなことから一旦距離をおいて“つくる”ことにシンプルに向き合いたかったことも大きな理由のひとつです。

 住んでみたら、最高でした。日照時間が日本でもっとも長いとか降水量がもっとも少ないなど、乾燥したコンディションがベターなマシンにとってこのエリアはいくつもの好条件に恵まれています。ネルシャツ着て、エンジニアブーツを履いて、薪を割る……そんなふうに漠然と思い描いていた「そうなったらいいな」というイメージを、この場所で叶えることができました。

 正直に言うと、いっしょにウェアを作りませんかというクシタニからの意外な誘いに最初は驚きました。手に油してバイクを作ってきた自分にはたしてライディングウェアのデザインができるのか?でもちょっと考えてみると……ものづくりにおいて、完成したモノへの個人的な満足を不特定多数のライダーと共有することができたら楽しいんじゃないか。ポジティブに、そんなふうに思えたのです。今回携わっているウェアづくりと、自分が生業にしているカスタムバイク製作との共通項は実際、かなり多いです。日ごろのカスタムは「ここはこうだったらいいな」「ここはこの方が使い勝手がいいかも」と個の目線でバイクと向き合っていく作業、その主語は自分でもあり未来のオーナーさんでもあります。それがカスタムバイクの基本なのですが、そんな「自分好みに仕立てたい!」という気持ちだけは、ウェアをはじめどんなアイテムにも共通して求めたくなるのも本音です。最終的には“好み”というシンプルなモチベーションにもとづいてカスタムの完成に向かうわけですが、ことウェアに関しては既製品ですのでどこかを我慢しなければいけない。だから100%の満足感を得られないのは仕方のないことだと思っていました。

ほかに例を挙げれば、家も家具も同じかもしれません。でも今回、クシタニとのコラボモデルを作るというチャンスに恵まれてとてもワクワクしています。自分がベストと思えるウェアを、大好きなバイクとともに実現できるのですから。

クシタニ製品に関して言えば、すでに機能的な要件は十分に満たされています。それらの秀でた長所をスポイルすることなく、ポケットなどのディテールデザインを自分なりの解釈でチューニングしていくような感じで詰めています。もともとスタイリッシュな「アーカナ」のパターンは残しながら、でもディテールの見え方や細かな色づかいなどを自分の好みの仕様にカスタマイズしていく……というのが今回のコラボモデルの趣旨ですね。46モデル、みたいなものになると思います。そのために幾度もサンプルを重ねてトライ&エラーを繰り返していますが、最終的にどんなスタイルものが出来上がるのかまだまだ未知数。自分が想像していた以上に手間と時間をかけてていねいに作っています。バイクのカスタムに関しては経験もノウハウもあるので「こうしたい場合はこうすれば」というイメージがしやすいですが、ウェアづくりは予測がしづらいことも含めて不安でもあり愉快でもあり(笑)。今はその振れ幅を楽しんでいます。

ウェアのデザインもバイクのカスタムも、「自分はどうしたいか」の自問自答を繰り返しますし、そのことから逃れられません。カッコよくしたい! という気持ちのすぐ横にはずっと「絶対にダサくしたくない」という本音ももちろん居座っていますよ。最終的なアウトプットが見えづらいウェアに関しては、正直言ってその気持ちがことさら強いですね。その上で願わくは、自分の作るバイクのシルエット、雰囲気、サイズ感にピタッときたら最高だと思っています。バイクもウェアもバランスがいちばん大事ですから。そもそも自分の作るバイクは分かりやすいジャンル分けが、カテゴライズがしにくい位置にいると自覚しています。ハーレーダビッドソンにはアメリカンな雰囲気の革ジャン、という定型みたいなものを僕の作るバイクには当てはめにくい。……僕はアウトローでもないですしね(笑)。カスタムバイクの業界はアメリカンカルチャーやホットロッド文化がメインストリームで、自分がやっていることはとてもニッチだと思っていました。でも先日、はじめて開いた個展には予想を超える2000人もの人が訪ねてくれたし、しかも会場の表に並んでいたバイクもライダーもみんなカッコよくて……その光景を見て、なんだかとても嬉しくなってしまいました。

僕が作るバイクは“乗るため”のバイク。乗って楽しいということを一番大切にしています。そのことと同列で、ライダーがまたがってカッコよく見えることもやっぱり大切。バイク単体がいくらスタイリッシュでも、人が足された時にバランスが良くないバイクは作りたくない。そもそもバイクの楽しさって、なんでしょうね? その理由を精神論で説く人も多いですが、僕の場合はちょっと違います。愛車を擬人化して人に見立てたり、バイクによって人生が変わったと語るつもりはまったくありません。「バイクは乗るとキモチいい」という混ざりっ気のない感情があるだけ。エンジンが快く吹け上がるとか、コーナリングが決まってスカッとするとか、その高揚感だけが真ん中にあるだけなんです。ライディングをしていて、いろんな要素がピタッとシンクロした時の……天にも昇るような快感ってなかなか言葉で表現しづらいですね(笑)。バイクの楽しさってごくごく個人的なものです。まず好みのエンジン形式があって、次に気持ちよく走れる車体があって、最後にコーヒーを飲みながら満足に浸れる外装がある。僕の中のプライオリティは、そんな順番で並んでいます。

Photography / TAKAYANAGI KEN

Text / MIYAZAKI MASAYUKI

Edit / HIGOSHI SHOTA(Moto NAVI)

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