MotoGPライダー・小椋藍、ホームコースで語った25歳の素顔

2026年のMotoGP前半戦で、日本人ライダーとして22年ぶりとなる最高峰クラス優勝も達成した小椋藍選手。そんな華やかな成績を持ちながら、インタビュー中には「レースは楽しくはないですよ」と、はっきりと言葉にした。

世界を舞台に戦うライダーであり、25歳の青年でもある彼の視座について話を伺った。

小椋藍

理想のライディングには、まだまだ遠い

この日、桶川スポーツランドに到着すると知り合いのライダーから「今日、藍くん来るんだって?」と声をかけられた。その話にサーキット内が浮ついているような気がしたが、それは気のせいではなかった。その噂を聞きつけてトレーニングに来たと語る全日本現役ライダーもいたほどだ。

そして、いざ最高峰クラスで戦うライダーが走り始めると、その日その場にいた全員の視線はコースに向けられた。その走りを見て、誰もが感嘆しているのが分かった。しかし、小椋選手にとって理想の走りとは?とたずねると、返ってきたのは厳しい自己評価だった。

「理想のライディングスタイルは、もちろんありますよ。でも…まだまだ自分のライディングスタイルで嫌いな部分は本当にたくさんあります。(フォーム修正は)時間が本当にかかるものだから、徐々に修正しているつもりですが理想とするものには程遠い」

とはいえ、理想の型そのものより、状況に応じてどうそれを活かすかを重視しているとも語る。

「自分のライディングスタイルっていう大きなものはあるけど、それをどういうふうにどこで使っていくかが一番重要というか大事。そして、それを上手に見つけていけるライダーが強い」

サーキットやコンディションによって”最適解”は変わり、その都度、そこに合わせて調整と模索という地道な積み重ねがあるのだろう。

「レースでの上位争いと中団での走行、どちらも得られるものがあって。その種類がちょっと違うだけで、どちらも学びがあります」とも語り、常に走りながら学び続けている姿勢がうかがえる。

日本を拠点に、実直な練習を積み重ねる

この日、走行後にノートを見返している姿があった。何を書き留めているのかとたずねると、「単純に、その日何秒だったかっていうのが書かれてるだけ」と、あっさりした答え。気温とタイムをその日ごとに記録し、「今日はかなり暑いので、夏にどのくらいのタイム出てたかなっていうのをちょっと見返してただけ」なのだという。「(記録しているのは)ライダーなら誰でもやっていることだと思いますよ」という実直なルーティンを積み重ねている。

日本拠点は、単なる練習環境以上の意味ももっている。現役ライダーの走りを間近で見せることが次の世代にとって何より大事だと、小椋選手はこれまでも語ってきた。その考えは今も変わらない。

「次の世代の子たちが勝手に自分を使って学んでてくれたらいいな、という感じでやってる」

実際、コースで顔を合わせた若手からアドバイスを求められれば「全然、聞いてくれれば(応じる)」といい、逆に自分から小さな子どもたちのライディングを見て「何やってんだろう」と感じれば、その子に聞きに行くこともあるそうだ。

そして、それは「彼らのためでもあるけど、自分のためでもある」と語る。新しいライディングスタイルは若い世代からどんどん生まれてくるものだから、自分もそれに乗り遅れたくない。そんな双方向の学び合いが、日本という拠点に根を張っている理由だ。

レースは「楽しくない」。その言葉の本当の意味

「(レースを)仕事って思ったこともないんですけど、楽しくはないです。全く楽しくはないですね。(子どもの頃から続けてきたことの延長線上にあって)仕事って言われると、仕事?ってなるんですけど……まあ仕事なんですけどね」と、苦笑いも見せた。

もちろん、バイクが嫌いになったわけではない。オフロードを走る時間や、練習で「今日みたいにオートバイに乗る時間は、本当に楽しい」と語る。

しかし、「レースは、本当に達成感……達成感のためだけですね。(置かれてる立場的に、)自分一人だけのものじゃないんで。そういうのがあると、やっぱり楽しめるものでもなくなってきます」と、まったく別のものなのだ。

勝敗だけではなく、多くのスタッフやスポンサー、応援してくれる人たちの期待を背負って走る責任。トップクラスで走るということは「自分一人だけのものじゃない」がより色濃くなり、ゆえに純粋な楽しさとは切り離された世界になる。

プレッシャーや孤独もあるだろうが、その達成感も、決して自分一人のためのものではない。「それだけ小椋選手のために動いてくれてる人たちがたくさんいるってことですよね」という問いかけに、「そうですね」と静かにうなずいた。

「そのために、そういう人たちを喜ばすために自分も頑張ってるみたいな感じです。僕は、単純に運も良かったです。チームの雰囲気もいいですし、本当に恵まれている」とほほえんだ。

チームで積み重ねてきた努力が結果につながる、その瞬間。そこに価値を感じているのだろう。そして、そのために自身ができることを積み重ねる姿があった。

来季ファクトリー入りへ、大きな夢は掲げない

来季のヤマハ・ファクトリーライダー就任について尋ねると、「それを夢として持ったことはないですね」と、はっきりした返事だった。数年前にインタビューした際は「どのクラスでもいいから、チャンピオンになりたい」という明確な目標を掲げていたのが印象的だったと伝えると、「今は特にないですね」という言葉が返ってきた。

言葉は少なかったが、世界チャンピオンになりたいとリップサービスでも語らないところに、私は好印象を抱いた。そして、彼がいま立つ舞台がまさに世界最高峰であることの深淵を見た気がしたのだ。だからこそ、いま現在の姿勢は「いけるだけいって、どうかな」というシンプルな言葉で、長くトップクラスで走り続けることが目下の目標のようだった。

「前進しようとして、ちゃんと前進できるのも稀で。大体がステイで、それを怠った瞬間にどんどん後退しちゃうんで……」。だからこそ「もう本当、やり続けていくしかない」と語る姿に、飾らないプロフェッショナリズムを見た気がした。

インタビュー後、小椋選手は負傷によりMotoGP第13戦アラゴンGPと第14戦サンマリノGPを欠場したが、第15戦オーストリアGPではスプリントレースと決勝レースともに4位という復帰戦とは思えない好成績を残した。レース後、彼はSNSに「We’ve completed our job for this time.Happy to be back.」と投稿していた。

Happy to be back.——その短い言葉が、なによりも雄弁だ。おかえりなさい!

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