製品と素材の関係性 クシタニの革をつくるタンナーの信念

1947年、革製品の製造販売店として創業したクシタニ。今でこそテキスタイルウェアやツーリングバッグ、シューズにいたるまでライディングギアを幅広く展開するが、もともと二輪業界にその名を知らしめたきっかけが国内初のレーシングスーツ、いわゆる革ツナギを生産したこととあって、「革」なくしてクシタニは語れない。創業以来、実に75年間、二人三脚で歩んできたパートナーといえる存在も、タンナー(製革業者)である。

クシタニのバイクウェアに使用する革をつくる工場 クシタニの製品づくりの裏側に迫る

共通軸は「良いものを世に送り出したい」

 「クシタニは、品質に対するこだわりが強い。そこで、今のところ日本で手に入る最も良い革と最も良い薬品を使って、とにかく一番良いものを製造しています。しかも、こういうジャケットやパンツ、スーツを作りたいという要望が明確にある。だから、品質が良いだけではなく、その製品にとって一番良い素材を提供できるんです。」
 実は、日本の革づくりの現状は、その革が最終的にどのような製品になるのかがわからないまま生産しなければならない場合が多いという。アパレル業界全体としても、そのような素材ありきの製品作りが主流な中で、まず作りたい製品があり、それに最適な素材を作るというのは、互いの信頼関係がなせる業にほかならない。
 「私自身もバイク好き、レース好きというところで、話が早いというのもあるかもしれませんね。クシタニは創業初期の頃から世界選手権で戦っていましたから、こちらも世界と戦って勝てる素材を作らないと、という使命感がありました。」
 バイク用品という観点からの研究にも余念が無い。他メーカーがレザー製品に対し、どのような考え方で素材を選んでいるのかということは折に触れて確認し、それに対して決して引けを取らないよう生産と開発を進める。この工場では、最高峰のレーシングスーツに使用される革の他、ツーリング用ジャケットやパンツに使用される革の生産も担う。
 「少なくとも、誰に対しても、お金を出してもらうだけの価値がある商品になっていると思います。革の原価がわかるからこそ、自分はこれにお金を出そうと思える、自分が納得するものしか作りたくないんです。」
エクスプローラージーンズの革の作り方
 「(エクスプローラージーンズの革である)エグザリートレザーは25年くらい前から作っていますね。基本的な作り方は変わりませんが、素材や品質はブラッシュアップしてきています。世界中を見渡しても、あの性能の革はあの価格では手に入らないでしょう。買って損はないと思います。おすすめですね。」

革を特別なものにしたくない

出荷する革はすべて、自分たちが作ったと胸を張れるもの。その一方で、革を特別にありがたいもの、価値のあるものにしたくはないという。
 「革は単に素材の1つでしかないし、そういうものであるべき。普通に使えて、日常生活の一部であってほしいんです。気づいたら手にとっている、なんとなく毎日着ている、というような。だから私たちが作る革の大半は、基本的にはメンテナンスフリー。良いものだけど手入れに気を使わなければならないとなると、私は面倒だと思ってしまうタイプ。着ているものに気を取られるより、走るほうに気を使ってほしいと思うんですよね。」
 これが一番良いんだよね、と思われたい。走るために着てもらいたい。その製品を手に取るライダーがよりライディングに集中できるように、そしてそのバイクライフが、より豊かになるように。タンナーとクシタニとの、確固たる共通認識がここにある。

 

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