これこそが最高品質 革にこだわり続けるクシタニのプライド

 レーシングスーツは、どの要素をもって品質と性能を見極めるべきか?


 クシタニでは、まず安全性と、ライディングに大きく影響するフィット感を追求。さらに〝1着を長く使ってもらう〞ことを考えているという。それは、製品自体の強度や耐久性だけでなく、リペアを含むメンテナンス。さらにベースのスーツ自体は長く使う中で、劣化したパーツやプロテクターのアップデートまで可能にする造り方とアフターサービスの体制が整っている。

 作り込みにも細心の注意が払われている。クシタニのレーシングスーツを目を凝らして見てみると、可能な限り凹凸が少なく作られていることが分かる。出っ張った部分は、転倒時に路面に引っかかり、怪我を招く可能性を高めるし、削れやすくて破損の原因となる。折り返す部分は、膨らまないように革の厚みを削ってから縫製されている。素材は牛革で、その中でもしなやかで強度が高い、ホルスタイン種の雄牛の革のみが使われている。

 クシタニのルーツは革製品にある。それだけに、革という素材へのこだわりは並々ならぬものがある。一例を挙げよう。革製品の表面には〝シボ〞と呼ばれる、シワのような起伏がある。天然素材ならではの風合いを生み出しているポイントのひとつだ。クシタニでは型押しをしていない、しっとりとしたしなやかな質感で強度と着心地を確保している。

革表面の、凹凸の模様がシボ。型押しを施した革を使用しないクシタニのレーシングスーツのシボは、天然物でひとつとして同じものはない。素人が見て判断がつくものではないが、これも高品質の証。
最上級の素材を、最適な加工法を用いて製作されている。

 生皮の状態を〝原皮〞と呼ぶ。原皮に手を加え、腐敗や硬化を防止する〝鞣し(なめし)〞などの工程を経て、原皮は革製品の素材へと生まれ変わる。その工程のひとつに〝型押し〞がある。模様が刻まれた型で革を強く押し、表面にシボを刻むのだ。型押しすることで、革の質感を均一に保つことができ、また表面積を拡げる効果もある。

 原皮は天然素材だから質が個々によって異なるし、保管中に痛むこともある。だが、型押しを施し着色を済ませた革素材は、外観から質の良し悪しを見分けることは困難。しかし多くの革製品は、そうした型押しされた革が用いられているのだ。

 一方クシタニでは、型押しを施した革をレーシングスーツに一切使用しない。なぜか? 型押しされた革は、引き伸ばされた状態なので、柔軟性に欠ける。また、原皮の傷んだ部分や質の悪い部分は、革に加工されても強度が弱くなってしまう。転倒時に破損してしまうようでは、クシタニの考える安全性の高さが担保できないからだ。

 革の品質に問題があると判断された部分は加工時にすべて取り除かれる。革の品質に5段階の社内基準を設け、グレード付けを行っているが、その中で最上級グレードの革だけが、クシタニのレーシングスーツの素材となる。裁断時にも、革の良い部分だけを選んで使用するため、歩留まりは恐ろしく悪い。それでもクシタニは、革の最上級の部分だけを使い続けている。トップブランドのプライドが感じられる部分だ。

 また、多くのレーシングライダーに愛用されるクシタニのレーシングスーツだが、彼らがレースで着用するものと、我々一般のライダーが入手出来るものは、基本的に同じものだ。一部のレーシングライダー用スーツには、先行開発のために、細部の仕が異なる場合はある。だが、素材や製法、品質に関しては全くの同レベルであるという。モト2ライダー小椋 藍選手のレーシングスーツと、クシタニのショップに吊るされているレーングスーツは、なんら変わりはないのというのだ。

 クシタニのスタッフは言う。「1着だけ、スペシャルなレザースーツを作るのは簡単。クシタニでは100着作って、全て同じ品質と性能で作ることを考えている」と。そしてもちろん、その100着全てに、最高の品質と性能が与られているのだ。

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