Never Stop Challenging. 進化し続ける、クシタニのモノづくり。

日本で初めてレーシングスーツの先駆けとして誕生したクシタニレザースーツ。世界・日本のトップライダーから絶大な信頼を受けてきたクシタニのモノづくりの原点である。時代毎にパターンやパーツは進化を続け、現在はMotoGP/Moto2クラス、全日本、鈴鹿8耐のプロフェッショナルをはじめ、バイクを愛するライダーの安全を守り続けている。そのヒストリーを知る製造部・南氏に語っていただいた。

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南 孝氏

レース観戦が好きで、レースに携わりたいとの思いからクシタニに入社。契約ライダーのスーツ製作やレーシングサービス等を担当し、選手との綿密なやりとりを参考に、クシタニのスーツ開発を担っている。

 昨年新たにオープンしたクシタニ浜松本店。店舗を入って左手の通路左右に、スポットライトに照らされたガラスケースが並んでいる。ケース内には歴代契約ライダーのレーシングスーツが整然とディスプレイされる。

レーシングスーツ

 

最初に目に入ってくるのは、現役で活躍する小椋藍選手のスーツ。そこから2000年代にかけての比較的新しい時代のスーツが並ぶ。ディスプレイは奥に行くに従って年代を遡っていき、世界GP時代~1970年代までのレジェンドライダーのスーツが飾られ、さらに奥には創業当時の櫛谷商店を再現したエリアへと至る。さながらタイムトンネルのようなこの空間で、クシタニのレーシングスーツヒストリーを時代を辿りながら体感できる。

 

最新技術に老舗が挑む。

入社から30年以上もの間、レーシングスーツ製作に携わってきた南氏に展示されているスーツについて解説いただいた。

現在Moto2クラスでチャンピオン争いをする小椋選手。クシタニはスペインCEV選手権時代から小椋選手をサポートしている。MotoGPは2018年から全クラスがエアバッグ装着を義務化。小椋選手がMoto3に参戦するにあたり、クシタニは初めてエアバッグシステムの装着に取り組んだ。

「レースが進化する過程で、ライダーのエアバッグ装着は数年前から既定路線でした。クシタニも国内テストでエアバッグ装着スーツのテスト・評価をしていましたが、小椋選手のスーツが初めての実戦投入となりました。装着にあたってはスーツの機能性や安全性を損なわず、エアバッグの膨張スペースを確保する必要があります。それこそミリ単位でパーツ設計を行い、試作を重ねて完成させました。実際にライダーが着用してOKのコメントをもらうまで、ずっと気の抜けない時間が続きましたが、新たな挑戦の一歩を踏み出せたのではと思います。」

レザースーツ
クシタニ初のエアバッグ装着モデル/小椋藍

ライダーとの信頼関係を築くこと。

南氏が記憶に残るライダーとしてあげてくれたのは、小椋選手が所属するイデミツ・ホンダチームアジアの青山博一監督。世界GP参戦を一区切りしてテストライダーに就任したタイミングで、クシタニとの関係がスタートした。

「私たちの仕事はレーシングスーツを作って終わりではありません。ライダーが着て走り、評価した点を改良して、またテストする。その繰り返しです。青山選手の場合、自分が感じたことの細部に至るまで、私たちに分かるよう丁寧に表現してくれたのが印象的です。テストはマシン開発の最前線ですが、それを有効に活用しようという彼からの提案で、用品の開発に協力いただきました。青山選手からは『こういう仕様にしたらこんなメリットがあるよ』という独自の提案もいただきました。彼のような経験豊富で現役でも活躍するライダーから得られる旬の情報はとても貴重でした。いろんなライダーが着用するスーツ開発において、特定ライダーの意見のみを尊重するのは危険です。最終的な仕様の決定に関してはメーカーが判断を下さなければいけません。それでも青山選手とは細部に至る点まで対話を重ねることにより、良い信頼関係を築くことができたと思います。そこで得られたものは確実にクシタニのレーシングスーツにDNAとして組み込まれています。」

レジェンドライダーとともに。

通路の右手奥には2000年以前のレーシングスーツが並ぶ。30年以上前に作られたスーツには風格が漂い、レジェンドたちの記憶を鮮烈に呼び起こす。中でもノリック・阿部典史選手のスーツは、我々日本のファンには感慨深い。

レザースーツ
レジェンドたちの貴重なレーシングスーツが並ぶ。一番手前がノリック・阿部典史選手。奥にはマモラ選手やガードナー選手のスーツも。

「ノリックのスーツを作った当時、私はパターン(型紙)と革の裁断を担当しました。年間7着ぐらい製作したと思います。全体にトロイ・リーのデザインを採用し、星をモチーフに使ったりと、ノリックにはアメリカンな印象があります。稲妻風のパターンは熱転写のプリントで、色ごとのシートを一つずつ人の手でカットしました。メッキ系の色を再現して欲しいという希望は、合皮で表現しました。クシタニとして初めてのトライでしたが、それがきっかけで本革の表面加工の会社と新しい繋がりができ、その後のモデルで素材として採用することができました。」

「ライダーは一人一人こだわる部分が違います。ガードナー選手は自分でインナープロテクターを用意しており、スーツの内側にプロテクターを装着するポケットを作りました。当時から怪我から身体を守る意識が高かったのだと思います。マモラ選手のスーツは対照的に、内側にプロテクター類を一切入れていません。彼からは、肩部分に立体感を出して欲しいと希望があり、追加のステッチを入れてリクエストに答えました。外から見られたときのイメージに拘ったのだと思います。基本的な安全性能を満たした上でプロライダーからの様々な希望に応えることで、クシタニのスーツづくりにおけるノウハウが増えていったように思います。」

レース現場での開発が市販モデルに直結する。

クシタニの現在のフラッグシップモデル、NEXUS2。安全性、運動性、快適性を追求した新パターンはライディングの自由度をより高め、まさにライダーにとって「第2の皮膚」。高強度のザイロンニット、フッ素を浸透させた低吸水性のプロトコアレザーという最高の素材は、着用した瞬間からしなやかなフィット性を感じられる。

 

クシタニの最新トップモデルNEXUS2。プロテクション性と運動性能を高次元で両立している。

「レーシングスーツはバイクの進化とともに、常に最高の性能を求められます。ライダーの身体を守る安全性能は基本ですが、同時に現代のライディングスタイルに合わせた身体の動きを妨げてもいけません。さらに生産性の高さも求められます。さまざまな要求を高次元でバランスさせて製品に落とし込む。そこにはレースの現場でライダーとともに開発してきたクシタニの豊富な経験が、惜しみなく投入されています。」

モノづくりの原点を忘れない。

クシタニのレーシングスーツ製作の現場は、各工程を分業して担当する。

最初に各パーツの元となるパターン(型紙)製作。素材となる革に対し、どの部分をどのパーツに使用するかを位置決めする「型乗せ」工程。型乗せされた革からパーツを切り出す裁断工程。パーツが重なる部分の革の厚さを削って調整する革漉き工程。シャーリングやプリント、ネームを作る工程。各パーツを縫い合わせて仕上げる縫製作業。一着のレーシングスーツができるまでには細かなパーツ製作を含め、多くの工程が存在する。多くのクラフトマンが製作に携わり、さまざまな人の手を経て、ようやく一着のスーツが完成する。

南氏はパターン製作からスタートし、裁断を経験。その後、プロライダーのレーシングスーツの製作・メンテナンス・開発へと進んでいく。その過程では短納期に対応するために縫製も覚え、気がつくと全ての工程を一人で行う技術を身につけた。

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「革という素材は一度針を入れると穴が空いて、やり直しが効きません。最初に縫製をする時は、それが怖かったのを憶えています。縫製ではミシンの針を自分の思ったところで止めることができ、曲線や角にも対応できるようになると、ようやく恐怖心がなく製作に集中できるようになりました。

パターン製作、型乗せ、裁断して各パーツができると、一刻も早く縫製してスーツに仕上げたくなります。30年以上この仕事に携わってきましたが、今でも一着のレーシングスーツが形になった時が、一番喜びを感じる瞬間です。」

最高のものを最良の形で提供する。クシタニのモノづくりの原点には、クラフトマンの自分の手で最良を作り上げる魂が宿っていることを実感した。

レザースーツ
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