平面素材を立体にする力【バイク専用レザーをつくるクシタニについて改めて思うこと vol.4】

200 個以上のパーツを丁寧に縫い合わせていく

裁断された革は、縫製の前にエッジをすいて薄くしていく。これは何枚もの革が重なった時の厚さを軽減するため。また装飾用の革は1.5mmから1mmほどの厚さにして軽量化。表面の段差をなくせば、転倒時の路面の引っ掛かりを軽減できるからだ。そしてこれは同時に、仕上げの美しさにも繋がる。

 

 

そして革と革、革とザイロンといった感じで次々とパーツが縫製されていく。「縫製」と言っても、パーツをただ繋げていくわけではない。パーツ同士で縫い合わせる辺の長さが違ったり、素材同士の曲率の異なる面同士を合わせなければいけない難しさがある。でも、だからこそ平面だったパーツが、どんどん立体的に膨らんでいく。

例えば、腕の部分はライダーがバイクに跨ってフォームを取った形になる。 縫製を見ていると、まるで革に息吹が吹き込まれていくような気がしてくる。これだけでライディングフォームの取りやすさが想像できる。

また、表面は平滑さと強度が重要だが、着心地を左右する裏側も硬くならないように、分厚くならないように工夫する。

クシタニ レーシングスーツの縫製について
縫う作業自体は、練習すれば身に付く。ミシンも進化しているし、昔ほど革 を縫うのは難しくないのだという。しかし、組み上がったところや、ライダーが着用したところをイメージして縫うのはやはり職人技が必要になる。
レーシングスーツの製作は料理と同じ。1枚の革をどう調理するか。味付け、彩りなどをオーダーに合わせて工夫をする。そして部位によって縫い方は様々。強度を高め、平坦にする。

レーシングスーツの製作は、ベテランの職人でも24時間を要する。1日/8時間作業しても3日はかかる。裁断もそうだが、縫製も人の手に委ねられている部分がとても多い。しかも、オーダーは人それぞれで、色もサイズもオプションも異なる。だから量産が難しく、それなりに納期がかかる。

完成したレーシングスーツを見ると少し不思議なことに気が付く。それは糸の色である。基本的にクシタニのレーシングスーツは革と糸が同色。ということはオーダーの仕様によって、縫製する順番が変わるのである。ミシンの糸を変更するのは時間がかかる作業とのこと。だから、同じ色の糸の部分をまとめて作業する。経験値が作業効率を大きく左右するのがよくわか る 。美しく確実なものをつくるだけでなく、どうしたら早く縫えるかも職人技の一つだ。

クシタニ レーシングスーツの縫製について
レーシングスーツはつくり方を変えるのが難しいバイクギアの一つ。特にクシタニの場合は難しい。安全性や着心地だけでなく、革を使い切ることやメンテナンス性の高さも考慮する。
クシタニ レーシングスーツの縫製について
ハサミを入れる角度も意識。垂直な断面だと落ち着きが出ないため、斜めにカット。機械ではできない気遣いだ。見た目の美しさにとことんこだわる。
クシタニ レーシングスーツの縫製について
様々な色、様々な素材が組み合わさり一着のレーシングスーツが完成する。縫い代の少なさも美しく見える要素。

クシタニの職人は、作業しながら、その製品がどのような形になり、どのように使われるかを常に想像し、ハンドメイドで形にしていく。だから、クシタニのレザー製品は、機械任せでは生まれない温もりに溢れている。

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クシタニ レザー
クシタニ レーシングスーツの縫製について
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