サスペンションのプリロードを自分の体重に合わせて調整したら、なんとなく乗りやすくなった感じがする。……というコトは「減衰力」も調整すれば、もっとイイ感じになるかも! でも減衰力のアジャスターって、妙に沢山ついているんですけど……??
減衰力アジャスターも触ってみたい!
サスペンションのセッティングの第一歩はプリロードの調整(「♯34 サスペンションの調整はプリロードから」を参照)。少し面倒だけど自分の体重に合わせて調整すると、それだけでけっこう乗りやすくなる。すると今度は減衰力のアジャスターも触ってみたくなる!
小川勤|TSUTOMU OGAWA
バイク専門誌に25年ほど携わり、10年ほど編集長を経験。その間、国内外の様々なバイクに試乗。2022年よりフリーランスのジャーナリストに(身長165cm)。
減衰力アジャスターは何のためについている?
そもそも、なぜバイクにサスペンションが装備されているのか? 路面の凸凹を吸収して乗り心地を良くするのが主な役目だが、もう少し掘り下げると「つねにタイヤが路面を追従する」ために必要だからだ。もし道路の凸凹を追従できずにタイヤが路面から浮いてしまったら、車体が直立した直進時ならともかく、カーブで車体がバンクした状態だったら一瞬でスリップして、最悪の場合は転倒してしまう。そこでタイヤが路面の凸凹に合わせて上下するための「サスペンション=スプリング」が装備されているのだ。
しかしスプリングは、いったん縮まった状態から解放されると、勢いよく元の長さ以上に伸びて、そこから再び縮まり、また伸びて縮まって……と伸縮を繰り返す特性がある。ようするに路面の凸に突き上げられて縮まった後にボヨンボヨンと車体が上下してしまい、次の路面の凸凹にきちんと追従することができない。これではタイヤがグリップしないし、やはり車体が傾いた状態だったらスリップして転倒する危険もある。
そこでスプリングがいつまでもボヨンボヨンと動き続けないように、伸縮する動きを抑えるのが「ダンパー=減衰力」の役目だ。そして減衰力のアジャスターは、スプリングの伸縮を抑える力を調整するためのモノだ。
スプリングのみだと振幅が止まらない
いったん縮めたスプリングを開放すると、ボヨンボヨンと伸縮を繰り返して、動きが収まるまでに時間がかかる。
ダンパーの仕組みは?
リヤサスペンションのショックユニットの概念図。ダンパーの中はオイルが満たされ、穴の開いたピストンが上下(サスペンションが伸縮)する時に、オイルが通過する抵抗で減衰力が発生する。減衰力のアジャスターを動かすとオイルの流れる量などが変化して、減衰力の強さが変わる。フロントフォークは形状や構造がかなり異なるが、減衰力を発生させる原理自体は基本的に同じだ。
バイクによって装備する減衰力アジャスターの種類が変わる
スプリングの動きを制御する減衰力のアジャスターには「伸び側減衰力アジャスター」と「圧縮側減衰力アジャスター」がある。これは文字通り、サスペンション=スプリングが伸びる動きをコントロールするのが伸び側減衰力アジャスターで、縮む動きを調整するのが圧縮側減衰力アジャスターだ。
それぞれを前後のサスペンションに装備するバイクもあれば、写真のBMW RnineTのように、フロントフォークは伸び側と圧縮側を装備してリヤショックは伸び側減衰力のみの車種もある。他にもリヤは伸び側を装備してフロントフォークはアジャスト機構が非装備だったり、前後とも減衰力アジャスターがついていないバイクもある。これはバイクのジャンルや、純粋にコストで装備・非装備が決まる場合もある。
それではそれぞれの減衰力アジャスターは、どんな乗り味やシーンに影響するのか? あくまで傾向だが、以下に簡単にまとめてみた。
■フロント
伸び側減衰力……曲り初めに前輪に舵角がつく速さや、ハンドリングの軽さに影響。
圧縮側減衰力……ブレーキングや減速時に、フロントフォークが縮む動きや速さに影響。
■リヤ
伸び側減衰力……曲り初めのハンドリングの軽さや舵角がつく速さ、後輪のグリップ感に影響。
圧縮側減衰力……向き変えから旋回時のリヤの沈み具合に影響するが、補助的な役目。
どのアジャスターを調整する?
それぞれの減衰力アジャスターの役目を先に簡単に解説したが、どこから触っていくのが良いのか? これは車種にもよるし、ライダーの乗り方や好みの問題なので特に決まりはない。
ただし調整する時は一度に色々触らずに、どれか一カ所を調整して走って効果を確かめ、フィーリングが良いところが見つかったら、次のアジャスターを調整……という方法がオススメ。一度に色々触ると、どのアジャスターがどんな乗り味に影響したのか判断がつかないからだ。
とはいえ個人的な経験から、最初に触るのは「リヤの伸び側減衰力アジャスター」がオススメかも。ここを調整するとハンドリングの軽さや車体を傾けて向きを変えるフィーリングが変わるし、後輪のグリップ感も変化するからだ。比較的多くの車両が装備している減衰力アジャスターであり、乗り味の変化が体感しやすいのもポイントだ。
リヤの伸び側減衰力アジャスターは多くのバイクが装備する
写真はBMW RnineTのリヤショックの伸び側減衰力アジャスター。おおむね600cc以上くらいのスポーツバイクの多くが装備し、アジャスターはリヤショックの下側に配置される場合が多い(ショックユニットの種類で異なる)。
リヤの伸び側減衰力は、大切な「向き変え」に影響する
コーナリングの組み立て(「♯20 コーナリングの意識改革をしよう!」を参照)で重要な「向き変え」。リヤの伸び側減衰力アジャスターは、そこでのハンドリングの重さ・軽さや、傾く動きの速さに大きく影響。旋回や立ち上がりの後輪のグリップ感も変化するので、かなり頻繁に調整するアジャスターだ。
どうやって調整するの?
大抵の減衰力アジャスターは右に回すと減衰力が強くなり、左に回すと減衰力が弱くなる。無段階で調整できるタイプと、カチ、カチとクリックのあるタイプがあり、どちらもいちばん右まで回し切った状態が最強だ。
そして減衰力のアジャスト量は、最強からどれだけ最弱方向に回したかで表現するのが一般的。たとえば標準設定の場所から右に1回転半回したところで止まったら、標準設定は「1と1/2回転戻し」というコトになる。
■アジャストした量の数え方や呼び方の例
無段階式→回転数で管理 (最強から)1と1/2回転戻し
クリック式→クリック数で管理 (最強から)6クリック戻し
新車だと大抵は標準設定の位置になっているが、調整を始める前に確認した方が良いだろう。中古車の場合は前オーナーが触っている可能性があるので必ずチェックしよう。ちなみに標準設定は車種ごとのハンドブックに記載されているが、わからなければバイクメーカーの「お客様相談室」に聞いて調べておこう。
そしてアジャスターを最強の位置(右回転で止まる場所)まで回すときは、力いっぱい締め過ぎないように注意。アジャスターの先端は尖った形状になっていて、オイル通路に入り込む量で減衰力を調整する構造の物が多く、締め過ぎると先端が潰れてきちんと調整できなくなる危険があるからだ。アジャストする際はドライバーの柄をギュッと握らずに、親指と人差し指で摘まむようにして、そっと回すのが安全だ。
減衰力は強めるor弱める? どれくらい回せば良いの?
ショックユニットの種類や標準設定の位置にもよるが、最初はアジャスターを大きめに動かした方が変化を体感しやすいだろう。そしてまずは減衰力を弱める方向で試すのがオススメだ。
たとえばリヤの伸び側減衰力アジャスターなら、標準設定と最弱の中間くらいにアジャストして走ってみよう。それでハンドリングが軽くなって乗りやすく感じたら、その位置からもう少し弱めてもっと軽くしたり、少し強めて重くするなどして好みの位置を探そう。反対にハンドリングが軽過ぎて好みでない場合は、標準位置から少し強める方向を試すのもアリだ。
あくまで傾向の話だが、減衰力を弱めるとサスペンションの動きが速くなるので、ハンドリングや乗り味が軽くなる。反対に減衰を強めるとサスペンションの動きが遅くなるため、ハンドリングが重くなる。これはどちらが良いというモノでは無く、走る場所やスピードでも好き嫌いのフィーリングは変化するので、自分の走り方に合った位置を探してみよう。
ちなみにセッティングで減衰力を弱めることを「抜く」、強めることを「かける」と表現する。『リーンの初期が粘るから、リヤの伸び側を少し抜こう』みたいに使うと、ちょっとベテランっぽくてカッコいいかも。
スーパースポーツ車は減衰力が強め!?
サーキット走行やレース参戦も前提に作られたスーパースポーツバイクは、高い走行アベレージを想定しているため、減衰力の標準設定が高めな車両が多い。その状態で一般公道を走ると走行アベレージが低いたので、ハンドリングや乗り味を重く感じることも少なくない。思い切ってかなり弱めに調整すると、乗りやすくなることもある。
フロントフォークの調整は?
フロントフォークの減衰力アジャスターは、スーパースポーツやそれらをベースとするスポーツネイキッドは装備しているが、それ以外は非装備のバイクの方が多いかも。サンプル車のBMW RnineTはネオクラシック系だが装備している珍しい例だ。
フロントも伸び側減衰力はハンドリングに影響するので、リヤの伸び側減衰力の次に調整すると効果的だろう。圧縮側減衰力はブレーキングや減速時のフロントフォークの伸縮の速さに作用するが、強くかけ過ぎるとフォークの動きが悪くなるので要注意だ。
基本的にリヤの減衰力アジャスターと同じ
BMW RnineTの場合は減衰力の強さを数字で管理できるようになっているが、こんな親切な仕様はかなり珍しい。一般的に右回転で減衰力が強くなり、右に回し切った位置が最強。左回しで弱くなり、アジャスト量は最強から戻した量で「1と1/4回転戻し」のように表現するのも他のアジャスターと同じ。最強位置まで回す時は、締め過ぎに気を付けよう。
最近増えてきた電子制御式サスペンション
近年はスーパースポーツや高速ツアラー等に、電子制御式のサスペンションを装備する車両が増えてきた。これは「セミアクティブサスペンション」とも呼ばれ、サスペンションの動きや車体の姿勢やスピード、さらにライダーの操作(アクセルを開けて加速したりブレーキをかけて減速したり等)まで検知して、リアルタイムでサスペンションを最適な状況にセッティングしてくれるメカニズムだ。
ライディングモード(パワーや各種電子デバイスをコントロール)の選択に合わせて、ベースとなる減衰力も自動的に変化するので、セッティングの知識が無くても快適に走れるのが特徴だ。また工具を使わずにスイッチ操作で減衰力を任意に調整することも可能なので、いろいろ試してみると楽しいだろう
「ベストセッティング」は存しない!
そうはいってもサスペンションのセッティングが少々難解なのは事実。そこでベテランライダーやバイクショップのメカニックなどに「ベストセッティングを教えて」と尋ねるライダーも少なくないようだ。……が、じつはベストセッティングというモノは存在しない。
それは同じライダーでもワインディングやサーキットなど、走る場所や走行アベレージが変われば、乗りやすいセッティングが変わるから。もっと言えば、同じ場所を同じようなペースで走っても、その時の体調や気分でも乗り味の感じ方は変わってしまうのだ。極端な話、午前中と昼食後などでもフィーリングが変わる。まして、乗るライダーが変われば言わずもがなだ。
だからこそサスペンションはアジャスト機構を装備しているワケで、走るシーンや気分に合わせて、その都度調整するのがオススメ。そして難しく考えずに、調整したことで少しでも乗りやすく感じたなら大成功。それだけでセッティングをする価値が十分にある。
「ヘタにイジったら危険じゃないだろうか?」と不安に思う方もいるようだが、アジャスターの調整範囲の中なら乗り味が若干悪くなるだけで、危険な動きになったりはしないのでご安心を。良くわからなくなったら標準設定(出荷状態)に戻せば大丈夫で、そこからまた調整をすれば良い。
せっかく調整機構が付いているなら躊躇せずに触って、愛車を自分好みに育てていくのも、バイクの楽しみ方のひとつだ。
次回予告 ♯36 ライディングの発見や気づきで ながく楽しく乗ろう!
RIDIND METHOT BACK NUMBER
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