ライテクをマナボウ ♯19 バイクの動きを邪魔せず 力を抜いて曲がる|KUSHITANI RIDING METHOD

バイクはハンドルを切るのではなく「車体を傾けて曲がる乗り物」というのは、当然わかっている。それに「余計な力を入れるな」とも言われる。だけど、そもそも力を入れなければ車体を傾けられないんじゃないの? この矛盾、どうしたモノか……。

バイクの傾け方に良し悪しがある!?

いままで何度か解説してきたが、前進しているバイクの車体を傾けると、傾いた方向に自然にハンドル(前輪)が切れる。これを「セルフステア」と呼び、バイクが曲がる仕組みの大前提なので、この動きを邪魔しないように乗るのが上手く操るコツだ。

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小川勤|TSUTOMU OGAWA

バイク専門誌に25年ほど携わり、10年ほど編集長を経験。その間、国内外の様々なバイクに試乗。2022年よりフリーランスのジャーナリストに(身長165cm)。

バイクは車体を傾けることで曲がる。それでは、どうやって傾けているのだろう? あまり考えたことが無いかもしれないけれど、正面切って聞かれると、よくわからなかったりする。

セルフステアを生むためには、車体を傾ける必要があるが、果たして皆さんはどうやって傾けているのだろうか? そう聞かれたら、おそらく「重心移動で傾ける」と答える方が多いだろう。これはもちろん正解だ。

それなら、どうやって「重心移動している?」と聞かれると、「……」と答えに窮するのではないだろうか。実際に停めたバイクに跨って、曲がるアクションを試してみると、意外と普段どうやっているのかきちんと再現できない場合が多い。そして、なんとなく「エイッ」っと上半身や腰を捻って曲がりたい方向に車体を寝かそうとしているパターンが多い。

もちろんこれでも車体は傾くし、曲がることはできる。ただし、身体に力を入れて(車体に力を与えて)傾けると、反力によって傾けたい方向と反対側に車体が起きようとして、この動きが曲がり始めるタイミングを遅らせてしまうのだ。

それはほんの一瞬かもしれないが、その間もバイクは進んでいる。たとえば40km/hで走っていると1秒間に約11m進むので、もし0.1秒タイミングが遅れると、自分が曲がりたいと思った場所から1.1m先に進んでから曲がり始めることになる。これが、なんとなく「思い通りに曲がれない」原因のひとつだ。

力で「寝かす」と、曲がり始めが遅れる

ハンドルを逆操舵気味にコジる(曲がる方向と逆に切る操作)や、腰を捻って寝かそうとすると、車体に与えた力の反力が生まれる。そのため上右の写真のように左に曲がるために左側に傾けようと力を入れると、車体は反力で一瞬右側(①)に起きようとし、その後に左側に傾く(②)。この①の動きの分だけ曲がり始めるタイミングが遅れてしまう。

傾けるには、力を抜く!?

それでは車体を傾けるための重心移動はどうやって行うのか? それはズバリ『力を抜く』のだ。

日常生活の中では、ここぞというタイミングで力を抜く、という行為はほとんどないので難しく感じるかもしれない。しかしスキーやスノーボード、サーフィンやスケートボードなどのバランススポーツの多くは、力を抜くことで重心移動を行っている。バイクも同様で、力を抜いて曲がりたい(傾けたい)方向に重心を預けることで、車体に余計な力を与えずにタイムラグ無しで曲がり始めることができるのだ。

ちなみに力を抜いて重心を移動することから、この動作を『抜重』と呼んでいる。

身体の中で重心を移動する

車体を傾けるための重心移動は「身体の中」で行うのが理想。上の写真(左カーブの場合)のように、曲がる前は右わき腹の辺りに重心を置いておき、曲がるときにスッと力を抜いて左側のお尻のほっぺ(シートと接触している部分)辺りに重心を移動しよう

とはいえ、身体を動かさずに身体の中だけで思った位置に重心を移動するのは難しい。そこでオススメの方法をいくつか紹介。

1 曲がる前に、アウト側(左カーブなら右側)の脇腹に力を入れて上半身を支えておき、曲がる瞬間にフッと力を抜いて上半身を沈める。

2 曲がる前に、アウト側(左カーブなら右側)のステップを、下方向に踏み下ろすように力を入れておき、曲がる瞬間にフッと力を抜く。

3 曲がる前に、イン側(左カーブなら左側)の肩を力入れて上方向に上げておき、曲がる瞬間にフッと力を抜いてイン側の肩を下げる(グイっと力を入れて下げないように注意)。

上記の方法のどれかひとつでも良いし、組み合わせてもOK。自分が力を抜きやすいと思う方法を探してみよう。慣れてくると、事前に力を入れなくてもスッと抜けるようになってくる。

ちなみに緊張度が高いと身体が硬くなって力を抜くのが難しくなるので、心身ともにリラックスできるスピードで試すのが得策だ。

どれくらい力を抜けばいい?

力を入れるのと違って、どれくらい力を抜くのかを量的に表現するのは難しい……、が敢えて言うなら「全部抜く」イメージだろう。

そして意識すべきは力を抜く速さというか落差だ。徐々に抜いていくのではなく、まずはスッ・フッ・カクッという感じに、スイッチを切るように一瞬で抜くようにしてみよう。

居眠りでカクッと舟を漕ぐイメージ

イスに座って居眠りしている時に、カクッと倒れそうになる時があるが、あれくらい一気に脱力するイメージ。他にも子供の頃にやった(やられた)、立っている相手の背後から、自分のヒザで相手のヒザの内側をクッと押す「ヒザカックン」。これをやられるとスコンッと力が抜けて身が崩れ落ちるが、あの勢いで力を抜けたら大成功だ。

 

次回予告 ♯20 コーナリングの意識改革をしよう!

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