ベテランから「遠くを見ろ」とか「バイクは見た方に進む」とか言われる。なんとなく意味は解るので、自分としてもやっているつもり……なんだけど、気が付いたら前輪のスグ前を見ていたりする。路面の荒れとか、気にし過ぎているのかな……。
「遠くを見ろ」とは言うけれど……
誰でも先の状況は気になるから、遠くを見た方が良いコトは言われるまでもなく理解している。それなのに、本人的に気づいているか否かはともかく、視線が近くなっていることが多い。ともすれば前輪からわずか数メートル前の路面を凝視していたりするのはナゼだろう……?
小川勤|TSUTOMU OGAWA
バイク専門誌に25年ほど携わり、10年ほど編集長を経験。その間、国内外の様々なバイクに試乗。2022年よりフリーランスのジャーナリストに(身長165cm)。
視線が近すぎて、ほとんど前が見えていない……
矛盾しているようにも感じるが「先が気になる→緊張する→上半身や腕に力が入る→アゴが上がる→視線が近くなる」というパターンはけっこう多い。また路面に浮いた砂や水、荒れに少しでもハンドルを取られた経験をして不安になり、路面を凝視しているうちにどんどん視線が近くなっていることも少なくない。
とはいえ視線が近いということは、前方の状況把握が遅くなるのは明らか。カーブの多い峠道では対向車のハミ出しや、山菜取りなどの路上駐車や歩行者に気づくのが遅れたりして大変危険だ。
当然ながらカーブの曲がり具合の予測も遅れるし、路面の砂や荒れなどもあまりに直近で気づいても避けようがないので、これでは先を見たい気持ちとは真逆な結果になってしまう。
というワケで「気づかないうちに視線が近くなる」ことを前提に、セルフチェック方法をご紹介。
まずは「アゴ」でセルフチェック!
前述したように、緊張すると上半身や腕に力が入り、同時にアゴが出てシートの前寄りに座る「前乗り」になりがち。そして視線が近くなる。そこで、身体から余計な力を抜き、シートの後ろ目に座って下半身ホールドして正しいフォームを取ろう……というのは理想的だが、すべてを意識して一度に修正するのはかなり大変だし現実的ではない。
そこで、まずは「アゴが出ていないか?」だけで良いので、走行中に頻繁にセルフチェックしてみよう。そしてアゴを引いて、上目使いで前を見よう。
実際にやってみると気づくが、腕を突っ張って背中が反ったままのフォームでアゴを引いて上目使いで前を見るのは、かなり困難なハズ。逆に言えば、アゴを引いて上目遣いにすると、自動的に背中が丸まるが、その時に腕が突っ張っていると上半身が窮屈に感じるので、腕の力を抜いてヒジを下げるとラクになる……という流れで、フォームを修正できるのだ。
視線が近いとアゴが上がって前乗りになる
アゴを出して顔を起こすと遠くが見える気がするが、じつは逆。前輪のすぐ先を覗き込むように見るため、気付かないうちに前乗りで背中が反ったフォームになっている。
後ろに座って上目遣いで遠くを見る
シートの後ろに座って、ヘルメットの開口部の上フチをかすめるくらい上目使いで前を見ると、自然と視線が遠くに向く。頻繁に「アゴが出ていないか」をセルフチェックしよう。
「3秒先」って、どのあたり?
遠くを見るのは前方の状況把握のためだが、バイクやクルマは前方の異常に気づいてから停止するまでに、おおむね3秒かかる。異常を判断して行動に移るまで1秒かかり、そこから実際にブレーキをかけて(スピードにもよるが)1~2秒かけて制動・停止する。逆に考えると、3秒あれば危険を回避できる可能性が高いので、つねに「3秒先を見ろ」と言われるワケだ。
それでは3秒先とは、具体的にどれくらい先のことなのか? 計算すればわかるとはいえ、走っている最中にその都度計算するのは大変。そこで、走行しているスピードをそのままメートルに置き換えるのがオススメだ。たとえば「40km/hで走っている時の3秒先は40m」という感じだ。計算値よりそこそこ多めになるが、それはマージンと考えよう。
その時のスピードを、そのままメートルにすればOK!
40km/h:秒速11m×3秒=33m ≒ 約40m
60km/h:秒速17m×3秒=51m ≒ 約60m
そして距離を測る目安になるのがセンターライン。白線の間隔は一般道と高速道路で異なるがキチンと決められているからだ。
たとえば一般道を40km/hで走っているときは4個先の白線(40m先)、60km/hなら6個先の白線(60m先)が3秒先という具合だ。高速道路を100km/hで走っている場合は5つ先の白線(100先)が3秒先になる。
頭ごとカーブの先に向けると曲がりやすい!
カーブに入る時は出来るだけ先まで見通すために、視線をカーブの先に向けるが、その際は目だけ動かすのではなく、頭ごとカーブの先に向けよう。そしてキツく回り込んだヘアピンカーブなどの場合は、肩ごとカーブの奥に向ける。
こうすると遠くまで先が見通せるだけでなく、身体の重心がカーブに対してイン側に入るので、いっそう曲がりやすくなるからだ。じつは目だけ動かしてカーブの先を見ようとすると、上半身を斜に構える(カーブに対して反対側に身体が向く)形になりがちで、こうなると重心が分散して曲がり方が弱くなってしまうのだ。
人間の視界は目を動かすだけでも200度近くあってかなり広いため、じつは頭ごと(肩ごと)カーブの先に向けるのは意外と身に付かない。なのでバイク以外の自動車や自転車に乗っている時や歩行中でも、意識して頭や肩ごと曲がる先に向けるようにして習慣づけるのがオススメだ。
次回予告 ♯25 カーブに合わせて座る位置を変えてみよう!
RIDIND METHOT BACK NUMBER
-
バイクはなぜ難しいのか? #1
バイクは楽しい、でも難しい……。そんな不安や疑問を簡単なコツで解決するのがクシタニ・ライディング・メソッド。ちょっとの気付きやヒントで愛車との距離はグッと縮まります。愛車を思い通りコントロールして、いっそう豊かなバイクライフを送りましょう!
-
跨る時に足が上がらない #2
いまどきのバイクはシートカウルの位置がかなり高い。跨る時に蹴ってしまいそうだから気をつけて見ているけれど、そもそも足が高く上がらなくて相当キツい……。股関節が痛くても、足がツリそうになっても頑張るしかないのでしょうか?
-
足着き性は解消できる! #3
バイクを選ぶ上でネックになることも多い足着き。停車中は両足ツンツンで、つねに立ちゴケの恐怖と戦っている……というライダーも多いのでは。ちょっとしたコツを知っていれば、いざというときに焦らず対応できます。
-
押し引きが上手いとかっこいい! #4
走り出したら爽快・軽快なバイクも、ガレージの出し入れやパーキングでの押し引きが億劫……と感じる人は多いのではないでしょうか。エンジン停止時でもオートバイの押し引きを自在に操れたら様々な場面で活かせますしかっこいいですよね。 今回は、そんな「押し引き」のコツをご紹介します。
-
バイクウェアで乗ろう! #5
バイクは自由な乗り物だし、ファッションだって好きなモノを選びたい。けれど、バイクに乗るなら「バイク専用ウエア」の着用をオススメしたい。運動性と快適性がライディングの楽しさを倍増!そしてバイクに長く乗り続けるためにも、バイクウエアの安全性が必要不可欠です。
-
ハンドルグリップの握り方 #6
ツーリングである程度の時間や距離を走ると、手や腕、肩が痛くなるけれど「バイクはそういうモノ」と我慢して(頑張って)乗っているライダーは多いのでは。とはいえこのツラさ、何とかならないのか? じつはハンドルグリップの握り方を工夫するだけで、かなり改善できるんです!
-
基本フォームとニーグリップ #7
街中やツーリング先で、いまひとつイケてないフォームのライダーを目にすることが……でも、自分はどんなフォームで乗っているんだろう?自分のフォームは自分では見えない。さあ、どうする!? そして、ニーグリップってよく聞くけど……。 実は、大事なポイントがあるんです!
-
ブレーキやクラッチが操作しやすい レバー位置の調整 #8
ちゃんとバイクのレバー調整を行なっていますか? じつはブレーキ/クラッチレバーの位置を調整するだけで、フォームや乗りやすさ、コントロール性まで大きく変わります。今回は、操作性を高めるレバー位置を紹介します。
-
クラッチ&ブレーキレバーのストロークを知る #9
半クラ、停止、発進・・・ クラッチやブレーキのレバーから伝わる情報はとても大切なんです。では、どうやってレバーのストロークを知ることができるのか?思い通りに止まったり、スムーズに発進するには「レバーのストロークの役目」を把握するのが先決です。 今回はその方法をご紹介します。
-
リヤブレーキ、使ってますか? #10
いまどきのバイクのフロントブレーキは超強力なので、リヤブレーキなんて使わなくても、充分に減速したり止まることができる。でも、本当に必要無いのだろうか?今回は、バイクの安定に大きな役割を果たす「リヤブレーキ」 その大切さをご紹介します!
-
実はニュートラルの簡単な出し方がある #11
ニュートラルに入れたい! けど2速に入っちゃう!慌ててシフトペダルを踏み下げたら、今度は1速へ。 実は、ニュートラルの出し方にはコツがあるんです!
-
安全でスマートな駐車の仕方 #12
駐車時、特に何も気にすることなく前から駐車。 実はそこには危険も……。意識を変えるだけでより安全な運転に変わります!
-
ギクシャクしないスムーズな発進 #13
発進時、緊張していませんか? エンストしたらどうしよう? ついギクシャクしてあわや転倒ということも 今回は、発進の際スムーズにかっこよく操作する技術をご紹介します。
-
停止線で毎回同じように停まれてる? #14
「毎回同じように停まれているか?」と聞かれると、ちょっと自信がないかも……バイクを自分の意志でコントロールすることは安全に繋がります。 特に大事なことがマシンを思うように停止させることができるか、ではないでしょうか?
-
ショックのないシフトアップ #15
加速時にスムーズなシフト操作できていますか? ギヤチェンジは、結構操作が多いですよね。 実は、シフト操作にもコツがあるんです!
-
ショックのないシフトダウン #16
おそらくシフトアップより、ダウンの方が苦手……というライダーが多いのではないだろうか。シフトダウンする時のショックは、不快というだけでなく「不安」。その不安を解消するコツをご紹介します!
-
回転数とギヤの選び方 バイクは低回転が美味しい! #17
いまどきのバイクのエンジンは、高回転まですごい勢いで回転が上がります。たくさん回した方が満足感はあるけれど、実際はスピードが出ちゃって内心ドキドキ。本当のところ、どれぐらいの回転数で走るのがいいのでしょうか。
-
バイクはどうやって曲がっている? 軽く傾けるコツがある? #18
バイクが自然に曲がろうとする動きを邪魔しちゃいけないといわれるけれど、バイクは車体を傾けないと曲がらないですよね。では、何を意識して傾けるのが良いのでしょうか。
-
バイクの動きを邪魔せず 力を抜いて曲がる #19
バイクはハンドルを切るのではなく「車体を傾けて曲がる乗り物」というのは、当然わかっている。それに「余計な力を入れるな」とも言われる。だけど、そもそも力を入れなければ車体を傾けられないのでは?この矛盾どうしたらよいのでしょう、、、
-
コーナリングの意識改革をしよう! #20
ライディングに慣れてくるとベテランライダーのように、カーブを気持ちよく曲がる方法が気になってくる。マネしてみるけど、なんだかぎこちない……気持ち良く曲がるコツってなんですか?
-
腰をズラす意味 知っている? #21
レースを見るとコーナーで大きく腰をズラしているし、峠路でも腰をズラしているライダーを見かける。カッコ良いなと思う反面、なんかヤル気満々でちょっと恥ずかしいかもって感じもする、、、でも、そもそもなんで腰をズラすのでしょう?
-
絶対に転ばないUターン #22
ツーリング中、曲がる予定の交差点や、店を見つけたのに通り過ぎてしまったなど、「Uターンしたいな」と思うシーンは良くある。けれどUターンが苦手。できれば良いのはわかっているけれど、立ちゴケするのはイヤだし、どうすれば良いんだろう?
-
路地からの発進&左折小回り #23
小さな交差点で左折する時、どうバランスをとっていますか?勢いでビュンと曲がのはリスクがあるし、かといって低速だとバランスをとるのがけっこう難しい……。もちろん曲がり切れないワケでは無いけれど、小回りのコツってなんでしょうか。
-
走っている時 どこを見る? #24
ベテランから「遠くを見ろ」とか「バイクは見た方に進む」とか言われる。意識はしているけれど、気が付いたら前輪のスグ前を見ていたりする。路面の状態気にしすぎですか?
-
カーブに合わせて座る位置を変えてみよう! #25
ツーリングでのワインディング、気持ち良く曲がれるカーブがあれば、なんとなくしっくりしなくて曲がりにくく感じるカーブもある。それって、カーブの種類で乗り方を変えた方が良いってコトですか?
-
回り込んだヘアピンカーブ どうやって走る? #26
キツく回り込んだ小さなヘアピンカーブ。スピードを落とさないと曲がれないけれど、極低速だと車体を傾けるのが不安だし、かと言って傾けなければ曲がらないし……楽しくなるテクニックありますか?
-
先の見えないブラインドカーブ どこから曲がる? #27
ワインディングは出口まで見通せるカーブがあまり多くない。曲がり始めたら思ったより回り込んでいて焦ったり、意外と緩くて肩透かしを食ったり……。いったいどうやって曲がれば良いんですか?
-
下りカーブはなぜ怖い? #28
正直なところ、下りカーブが苦手……というか怖い。勝手にスピードが上がってしまうし、エンジンブレーキに頼ると音と振動が大きくなるばかりで、思ったように曲がれない……。上りはけっこう気持ち良く走れるのに、どうしてこんなに違うんだろう?
-
なぜ 右カーブは難しく感じるの? #29
なぜだか右カーブの方が左カーブより難しく感じる。なんとなくライディングフォームが決まらなかったり、ゆっくり走っていても微妙に不安だったりする。コレってたまたま自分がニガテなだけですか?
-
曲がるきっかけ どうやって作る? #30
コーナリングの組み立てを意識したり、ブラインドカーブも出口が見えてから曲がり始めることで、ワインディングが楽しくなってきた。けれど、どうも狙った場所からきちんと曲がり始めるのが上手くいかない。ビシッとタイミングを合わせるコツってあるんですか?
-
あ!曲がりきれない! その時どうする? #31
ブラインドカーブの曲がり具合が、予測した以上にキツくて、ドキッ!としたことありませんか?なんとかやり過ごしてはいるけれど、きちんと回避できないと本当にヤバイかも……。
-
アウト‐イン‐アウトは危険!? #32
スポーティにコーナリングするなら「アウト‐イン‐アウト」の走行ラインが有効だと昔から言われている。もっとも効率が良く、カーブを最速で駆け抜けられるテクニックとして有名だけど、ワインディングでも何かメリットがあるのかな……?
-
タンデムのパートナー どう乗ってもらう? #33
パートナーを乗せて初めてのタンデムツーリング。きっと喜ぶはず……と思いきや、バイクに跨る時点でギクシャク。パートナーも「大丈夫かなぁ……」と、なんだか不安な感じに……。走る前から躓かないためにはどうしたらいいですか?
-
サスペンションの調整はプリロードから #34
愛車のサスペンションを見ると、調整機構が付いている。ベテランはそれらの機構を触って、バイクの乗り味を自分好みにしている……らしい。そんなことができるなら、ぜひ自分のバイクでもやってみたいが、どこから手を着ければいのか……。
-
サスペンションの減衰力調整で何が変わる? #35
サスペンションのプリロードを自分の体重に合わせて調整したら、なんとなく乗りやすくなった感じがする。そしたら今度は「減衰力」も調整してみたい!でも減衰力のアジャスターって、妙に沢山ついているんですけど……どう調整したらいいのかな?
-
ライディングの発見や気づきで ながく楽しく乗ろう! #36
YouTubeとKUSHITANI LOGS連動で毎週続けてきた「ライテクをマナボウ」は、今回が(とりあえず)最終回。街中やツーリングで感じる「こんな時どうする?」を、少しでも解決するのに役立ったでしょうか?小さな気づきの積み重ねで、バイクはもっと楽しくなるし、ずっと乗り続けたくなるはずです!