ライテクをマナボウ ♯21 腰をズラす意味 知っている?|KUSHITANI RIDING METHOD

レース映像を見るとコーナーで大きく腰をズラしているし、ツーリングで行った峠路でも腰をズラしているライダーを見かける。カッコ良いな……と憧れる気持ちと、なんかヤル気満々でちょっと恥ずかしいかもって感じもするけど、そもそもなんで腰をズラすの?

ズラすとカッコイイ? ズラさない方がジェントル?

コーナーで腰をズラすライディングフォーム、専門的にはリーンインと呼ぶが、この乗り方が登場したのは1970年代のロードレースからで、バイクブームの80年代で一気に有名になり、いわゆる「峠小僧」と呼ばれた昔のライダーたちはこぞってマネをした。

Picture of 小川勤|TSUTOMU OGAWA
小川勤|TSUTOMU OGAWA

バイク専門誌に25年ほど携わり、10年ほど編集長を経験。その間、国内外の様々なバイクに試乗。2022年よりフリーランスのジャーナリストに(身長165cm)。

とはいえ一般道を走るライダーの中には、レースのように飛ばすのでないなら車体のセンターに乗るリーンウィズが正統派でジェントル、という意見もあり、この考え方は現在でもある。

しかし、そもそもなんで腰をズラすのだろう? 昔はバイクのバンク角が浅くて深く傾けられなかったからとか、プロライダーは小柄だったからとか、様々な噂が飛び交った。いずれにしてもレースのようなハイスピードで走るのでなければ、ズラす意味は無いようにも感じるが……。

腰をズラすのは、リヤタイヤが太くなったから

諸説ある腰をズラす理由だが、近年のバイクシーンで考えると「タイヤの進化」が最大の理由だろう。

昔と比べるとスポーツバイクの排気量やパワーも大きく変化しているが、1970年代頃までの当時の中型バイク(250ccクラス)だと後輪の幅が100mmくらいまでが普通。ちなみに現在も大人気の旧車のカワサキ900スーパー4、いわゆるZ1の後輪も4.00-18なので、約120mm幅だ。ところが現代の中~大型車だとおおむね180~200mm幅が主流で、なんと倍近くも太くなっている。

そしてタイヤが太くなると、バンクする時の接地点の移動量も大きくなる。これに対し、車体の真ん中に乗ったリーンウィズだと、ライダーの重心が接地点の移動を「後追い」する形になり、曲がり初めにタイムラグが生じる。そこで、あらかじめタイヤの端に重心を預けておく腰をズラすリーンインのフォームが有効になってきた。

また、スポーツモデルが装着するラジアルタイヤは体重を預けて接地面をしっかり潰すことで、グリップ力や旋回力が高まる。そのためにも、腰をズラしてバンクした時に接地する「タイヤの端に乗る」ことが有効だ。

2022年 DUCATI Monster+ 後輪サイズ:180/55 ZR17

1966年 YAMAHA YDS-3 後輪サイズ:3.25-18(90mm相当)

幅広タイヤは接地点の移動量が多い

車体がバンクすると、タイヤの接地点もセンターからサイドに移動する。モンスターの後輪タイヤの幅は約180mmで、YDS-3は約90mmなので、接地点の移動量もモンスターの方がおおむね2倍になる。

一般道でも腰をズラした方が良いの?

前述したように、タイヤ(後輪)が太いバイクは曲がり始めのタイミングが遅れずに明確に曲がるために、腰をズラす効果がある。おおむね後輪幅が150より太い、いわゆるミドルクラス(600ccクラス)以上なら腰をズラすのがオススメだ。反対に後輪の幅が細いバイクなら、車体の真ん中に乗るリーンウィズで問題ない。

これはスピードに関係なく、曲がり初めが明確になって大型車でも軽快に操ることができるので、一般道でも効果あり。さすがに街中の交差点でズラす必要は無いが、ツーリングなどで走るワインディングのカーブで、ぜひ試してみよう!

真ん中に乗るリーンウィズ

車体が傾くと後輪の接地点がセンターからサイドに移動するが、リーンウィズで真ん中に乗っていると、ライダーの重心点が接地点の移動を後追いする形になり、そのタイムラグで曲がり始めが遅くなる

腰をズラして乗ると……

あらかじめ腰をズラすことでライダーの重心をタイヤの端の方に預けておけば、接地点の移動に対して重心点が遅れないため、車体が傾いた瞬間にシンクロして曲がり始める

腰はどれくらいズラせばいいのか?

レースのような超高速で曲がるためではなく、あくまで幅の広いタイヤで曲がり初めのタイムラグを無くすのが目的なので、そんなに大きくズラさなくて大丈夫。シートの少し後ろ目に座った状態で、曲がる方向に5~10cmほどズラせば十分だ。

反対に大きくズラそうとして足や腕など身体に力が入っていると、しっかり重心を預けられなくなってしまうので本末転倒。大きな違和感がない範囲でズラしてみよう。ちなみにイン側のヒザ(左カーブなら左側のヒザ)は開かずに、軽く燃料タンクに沿わせた方が安定感・安心感が大きい。

5~10cmくらいズラせば十分

たとえば180サイズのタイヤ幅の半分は90mmなので、相応に深くバンクする場合でも10cmほど(成人男子のコブシの幅くらい)ズラせばOKで、5cmくらいでも効果がある。

腰はいつズラす?

曲がる瞬間に腰をズラすライダーも目にするが、これはオススメできない。曲がる瞬間に身体を動かすと、重心の移動と車体の傾く動きがズレる危険があり、これではせっかくズラす意味が無くなってしまう。

なので、腰をズラすのはカーブの手前の直線部分か、遅くても減速をはじめるブレーキングの初期の段階でズラしておくのが良い。そしてカーブを曲がり終わったら真ん中に座り直し、次のカーブに向けて準備しよう。

次回予告 ♯22 絶対に転ばないUターン

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